軽減税率にポイント還元「増税対策」不発のワケ さまざまな指標から見える消費意欲の減退
モルガン・スタンレーMUFG証券の山口毅・日本チーフエコノミストは「増税前の景気のトレンドに勢いがなくなっており、増税の抵抗力があるのか、やや心配していた。さらに、日本はアメリカと比べて、賃金は増加しているが、税金や社会保険料を除いた後の可処分所得がほとんど伸びておらず、これが個人消費が弱い原因になっている」と指摘する。
雇用者報酬と可処分所得の推移を四半期ごとにみると、両者ともに確かに右肩上がりに増えているが、両者の乖離幅が広がっていることがわかる(いずれも名目値)。
雇用者報酬とは給料やボーナス、企業が負担する社会保険料負担を合計したもので、可処分所得は雇用者報酬に年金給付や財産所得を加え、税金や社会保険料負担などを除いたものだ。両者に乖離があるということは、働く人たちの給料などが増えても、税や社会保険料の負担が重く、家計の手取りがさほど増えていないことを意味している。
実際、2010年以降の税と社会保険料の動きをみると、税金の負担よりも社会保険料の負担のほうが重くなっていることがわかる。
トリクルダウン効果は起きなかった
ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎・経済調査部長は「10月は台風の影響という特殊要因がある。消費増税の影響は11月以降の数字を何カ月分かみないと判断できないが、11月の自動車や百貨店の数字が悪いのは、増税前から悪かった消費の弱さを示すものかもしれない。アベノミクスの元々のシナリオは、企業が元気になれば、いずれ家計に恩恵をもたらすメカニズムを想定していたはずだが、いつまで経ってもうまくいかない。それは法人減税で企業負担を小さくして、消費増税で家計を痛めつけているからだ」と話す。
企業業績は依然として好調だというのに、それが家計の所得にまで波及せず、しずくがぽとぽと垂れ落ちるような「トリクルダウン効果」は起きていない。家計消費の伸び率は、2014年から5年連続でGDPの伸びを下回っている(いずれも実質)。
そんな中、12月5日に総合経済対策が閣議決定された。事業規模で総額26兆円、財政支出規模で13.2兆円にのぼり、政府試算によれば、GDPをおよそ1.4%押し上げる効果があるという。その経済対策の冒頭、アベノミクスの7年間の「成果」が次のように強調されている。
「デフレではない状況を作り出す中で、GDPは名目・実質ともに過去最大規模に達しており、我が国の景気は内需を中心に緩やかな回復基調にある。(中略)賃金は、6年連続で今世紀最高水準の賃上げが実現している」
しかし、GDPは成長率がプラスになれば、当然過去最大規模になる。2000年以降で名目、実質のGDPがマイナス成長になったのは、リーマンショックのあった2008年とその翌年の2009年、東日本大震災のあった2011年だけだ。
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