日本人は自国の豊かさの現実をわかっていない GDPは大きいが1人当たりで見るとバランス悪い

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一方、配当や利息などの第1次所得収支は1980年代から徐々に増加傾向となり、現在では経常収支の稼ぎ頭になっている。「貿易立国」から「投資立国」へのシフトが鮮明になってきたと言っていいだろう。

実際のところ、現在の日本の稼ぎは貿易による黒字ではなく、投資収益や配当、利息などによって得られる金融収支の黒字が大きい。製造業を中心とした工業立国ではなく、金貸しや金融によって豊かになっている日本にわれわれは住んでいるわけだ。

国の豊かさはGDPでは分からない?

そもそもGDPは、その国の力や豊かさを最も象徴する数値として使われてきたが、近年この数値に疑問の声がある。確かにGDPの大きさは、国はもちろん個人の豊かさを象徴するものとしても最もポピュラーだが、国民の幸福度にはつながらないことが指摘されている。

GDPは、経済学者のサイモン・クズネッツが発案したものだが、彼自身もアメリカの議会で「GDPでは国民の幸せははかれない」と証言している。むしろ「国家の軍事力を見積もるために考案されたもの」であり、GDPが大きいからといって国民が本当の意味の豊かさを手にすることができるかどうかは、また別問題と言っていい。

実際に現在の世界のGDPを見てみると、軍事大国のアメリカが抜きん出て大きく、ついで13億人の巨大な人口を抱えて急成長してきた中国が続いている。平和憲法を持っている日本は軍事費を別のインフラ整備などに回すことができたのが幸いしたのか、世界第2位、3位の座をすでに半世紀近くも続けている。

GDPは、その国の経済の大きさだけではなく、その伸び率などによって経済成長率が判断され、景気の良し悪しや経済政策なども決まっていく。そもそもアベノミクスや日銀の異次元緩和もGDPをベースに進められている。そんな「GDP最優先主義」に逆らう形で始まったのが、国の豊かさを改めて考え直す指標の開発だ。

2008年2月から1年半をかけて、世界の専門家24人が集結して新しい豊かさの概念を提案した。これが2009年に発表された「スティグリッツ報告」と呼ばれるレポートだ。通称「サルコジ報告」とも言われる。

「GDPの問題点」「生活の質」「持続可能な開発と環境」という3つのテーマによって、経済のパフォーマンスを考えて行こうという考え方だ。実際に「社会全体を見るなら平均値ではなく分布や底辺を見るべき」「GDPは生産の尺度。市民の幸せを見るなら生産よりも所得と消費を見るべき」「GDPの使い方が間違っている」といった指摘をしている。

こうした考え方をもとに、2012年6月に国連がまとめた報告書「総合的な豊かさ報告2012年(Inclusive Welth Report2012)」が大きな注目を集めた。同報告書は2014年、2018年にもまとめられている。ちなみに、同報告書では1990年から2008年までの18年間の国の豊かさをまとめており、2012年に発表されたランキングでは、日本が国全体の豊かさでアメリカに次ぐ第2位となり、国民1人当たりの豊かさではアメリカを抜いて第1位だった。

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