日本人は自国の豊かさの現実をわかっていない GDPは大きいが1人当たりで見るとバランス悪い
同報告書では、国の豊かさを4つの資本に分けてその残高を計算。年間の伸び率(フロー)ではなく残高(ストック)を計算しているところが特徴的だ。その4つとは――。
日本の場合、天然資源が乏しいとずっと言われ続けてきたが、天然資源という枠で考えれば国土の7割は森林であり、国の周囲は豊富な水産物の資源に恵まれた海に囲まれている。日本の豊かさは勤勉な国民と優れた製造業によるもの、という既成概念は通用しないのかもしれない。
ちなみに、2018年にまとめられた「新国富レポート2018」では、世界全体の富のシェアを健康資本(26%)、教育資本(33%)、自然資本(20%)、人工資本(21%)という形で分類している。国の豊かさは、人間の健康維持の制度や教育システムによって半分以上は決められている、というわけだ。北欧諸国は、GDPの規模は小さいが、社会福祉制度が充実。質の高い教育環境が整備されている。そういう意味では、日本は豊かな国とは言い難い。
1人当たりのGDP=26位が意味すること?
問題は、従来のGDPで考えた場合、最近の日本は長い間足踏みをしている状態と言って良い。とりわけ、「1人当たりGDP」の数値は、日本経済のバランスの悪さを示唆している。
たとえば、日本はGDP全体の大きさは世界第3位なのに1人当たりの名目GDPは世界第26位(2018年、IMF調べ)。単純に考えれば、生産性が低く、賃金が上昇していないためで、安い賃金で働き続ける高齢者やいまだに旧態依然とした産業やゾンビ企業が数多く残っていることなどが指摘されている。
民主党政権時代、2010年の1人当たりのGDPは4万3000ドル(約470万円、IMF調べ)。円高の影響もあるがピークに達している。安倍政権になった2015年は3万2000ドル(約350万円)に下落。この現象は、政府が企業側にスタンスを置くか、労働者側に置くかで説明できる。国の豊かさというのは企業が豊かになるか、労働者が豊かになるのかの違いと言っていい。
日本の富の蓄積状況を見ると、その実態がよくわかる。日銀が、今月20日に発表した2019年7~9月期の資金循環統計によると、家計が保有する金融資産残高は1864兆円、企業の現金・預金は271兆円。金融資産に限れば、家計(個人)が最も多くの金融資産を保有しているのは当然としても、企業も莫大な金融資産を保有していることになるわけだ。
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