デパスの取り締まりが「遅すぎた」と言われる訳

麻薬・向精神薬指定に26年、需給制限は不可能

そこで自身も精神科を長らく受診し、過去にデパス(エチゾラム)を闇売買したこともあるという都内在住の30代前半の男性に話を聞いた。

「いわゆるインデックス化されていないインターネット上での闇サイトでの取引は、いまは摘発や規制が厳しくてほとんど行われていないと思います。自分が関わってた頃はSNSの走りだった『mixi』を通じて行われることが多かったですね。というのも『Facebook』などと違って匿名で登録でき、メンヘラ(メンタルを患った人)のコミュニティーも簡単に作れましたから。最近ではTwitterが主でしょうね」

男性によると、売買されるデパス(エチゾラム)は医療機関で処方を受けた個人の余剰分、医療費が無償になる生活保護受給者が医療機関で偽って処方を受けたりしたものがほとんど。ただごくまれに保険調剤薬局での不動在庫が人づてに流出してくることもあったという。

現在、デパス(エチゾラム)は0.25mg、0.5mg、1mgの錠剤、細粒という粉薬があるが、現実に処方されているものの多くは錠剤である。その公定薬価は0.25mg、0.5mgが1錠9.2円、1mgが11円。ジェネリック医薬品だとさらに1~4割安くなる。健康保険の3割負担では1錠2~3円程度だ。男性によると、デパスの場合、おおむね闇売買では1錠100円程度だという。

「コミュニティーで知り合った『身内』の取引」

「基本的にデパス(エチゾラム)を闇で買いたいという人は、乱用気味になって医療機関から処方された薬が足りなくなった人が多い感じですね。mixiコミュニティーなどを通じて互いに連絡して近所ならば直接会って売買しますし、そうでなければ郵送、宅配便などその時々に応じて輸送手段を選び、決済は銀行振り込みです。自分の印象では女性の購入者が多いですね」

男性は自分が経験している範囲と断りながら、デパス(エチゾラム)のような向精神薬の取引は、反社会組織による覚せい剤、大麻などの売買とはかなり異なるという。

「要はコミュニティーで知り合った半ば『身内』の取引です。そもそも覚せい剤や大麻と違って入手そのものは医療機関で簡単に出してくれるので。しかも、売買価格は安いですから、旨味なんてありません。もっとも生活保護受給者の場合、タダで入手したデパス(エチゾラム)を1錠100円で50錠で売って、5000円が手に入るだけでも大きいですよ。要はついでの小遣い稼ぎのようなもの。取引時も銀行振り込み確認後の発送という厳格なものではなく、『送ったよ。振り込んでおいてね』『うん、後で振り込んでおく』というノリです。顔見知りならば、時には余っているからタダであげる、別の向精神薬と物々交換するということもあります」

遅すぎたと言われるデパス(エチゾラム)の麻薬・向精神薬取締法による指定。とはいえ、これにより供給(処方)には一定の縛りが入るようになり、以前と比べれば安易な処方は減っていると言われる。しかし、合法薬物であるデパス(エチゾラム)の場合、覚せい剤や大麻と違い、供給の根絶は不可能だ。また、薬物依存の根本の解決には供給の制限だけでなく、需要の制限も必要となる。しかし、前回までに報告したような過去のすそ野の広い安易な処方の結果形成された需要の制限は容易ではない。

デパス(エチゾラム)の依存問題はまだとば口にたったばかりで、今も救われない患者は潜在化し、その一部にはデパス(エチゾラム)を求めて闇市場に走っているというのも動かせない現実である。

(取材・執筆:村上 和巳/ジャーナリスト、浅井 文和/医学文筆家、Thanks to Y)

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(第7回に続く)

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