ただ、デパス(エチゾラム)発売後に麻薬・向精神薬取締法が成立したとはいえ、法規制開始を起点としても指定まで26年も要したことに首をかしげる医療従事者は少なくない。実際、第1回でも紹介した現在は2年ごとに行われている「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」の報告書で確認できる範囲では、はやくも1990年代にはデパス(エチゾラム)の乱用事例が報告されているにもかかわらずだ。
また、医療従事者の中にはデパス(エチゾラム)が主に日本国内で使用されており、海外ではスペインなどごく一部の国でしか承認されていないことから、国際的な向精神薬の指定枠組みにのらなかったことが指定が遅れた原因だと見る向きもある。
向精神薬については乱用防止の観点から「向精神薬に関する条約」が1971年に採択され、日本は1990年に同条約に批准。これにより麻薬取締法を一部改正し、前述の向精神薬も取り締まれる麻薬・向精神薬取締法が同年に成立した。
問題視された海外流出と常用量依存
同国際条約では取り締まり対象薬も規定されているが、そこにはデパス(エチゾラム)は入っていない。このため規制対象として目をつけられるのが「遅れた」という見方をする専門家は少なくない。
この点について坂西氏は次のように説明した。
「確かに『全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査』の報告書でデパス(エチゾラム)が主たる原因で精神障害で入院または通院されている患者さんがいらっしゃるということは承知しておりました。ただ、実際に起きている症例数、国内外の乱用情報などを加味したうえで検討した結果、2016年に指定に至ったということです。
向精神薬条約との兼ね合いでは、麻薬・向精神薬取締法では向精神薬条約で指定されたもののみに限らず、日本独自の判断で指定に至ることもあります。ただ、その場合も科学的な根拠に基づいて指定をするため、それらを収集し、内容を確認したうえで検討を行っています。その意味でデパス(エチゾラム)については指定直前の2014年の実態調査結果に基づき指定を行いました」