デパスの取り締まりが「遅すぎた」と言われる訳 麻薬・向精神薬指定に26年、需給制限は不可能

✎ 1〜 ✎ 4 ✎ 5 ✎ 6 ✎ 7
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

一方、2016年のデパス(エチゾラム)の向精神薬指定当時の事情に詳しいある関係者は、指定の背景にあった事情の1つを吐露してくれた。

「あの当時、既にデパス(エチゾラム)は、(乱用を目的に)国内で不適正に取引されていたばかりか、不正なルートで海外に流出していたという由々しき問題があった。しかし、麻薬・向精神薬取締法の指定薬物ではないため、取り締まれなかったのです。指定の背景にはそれを取り締まらねばならないという事情もありました」

一方、監視指導・麻薬対策課によるデパス(エチゾラム)のような依存性のある向精神薬に関する所管業務は主に適正流通に向けた監視指導、正しい用法用量を超えた乱用事例の実態把握や乱用の予防啓発が中心となる。デパス(エチゾラム)などでのもう1つの問題である、改善すべき症状がないのに定められた用法・用量の範囲内の使用がやめられない「常用量依存」は医薬・生活衛生局医薬安全対策課が主たる管轄となる。

そして同課(当時の名称は安全対策課)は2017年3月、ベンゾジアゼピン受容体作動薬について、医療上の必要性があって承認をうけた用法・用量の範囲内で使用しても、漫然とした継続投与で依存性が生じることがあるとして、デパス(エチゾラム)を含む44成分の添付文書を改訂するよう、製薬業界団体である日本製薬団体連合会に通知で指示した。

通知を受けて44成分の添付文書には、「重要な基本的注意」の項目に「漫然とした継続投与による長期使用を避ける」「投与を継続する場合には、治療上の必要性を十分に検討する」との旨、「重大な副作用」の項目に「薬物依存が起こり得る」旨を追記することになった。

これは常用量依存に対して行政が初めて発した警告として注目されたものの、精神科専門医などからは「遅きにすぎる」との批判も浴びた。

ちなみにこのときは同省所管の独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(略称・PMDA)の調査に基づき、2016年6月30日までに製造販売業者が入手した国内での依存関連事象の件数を一部公表したが、最多はデパス(エチゾラム)の720件だった。

この件について医薬安全対策課に現在の実態把握やその後の対策などを尋ねたが次のような答えが返ってきた。

「常用量依存の実態については、現時点では2017年3月に発表した内容以上の情報はこちらも持ち合わせていない状況です。また、この件についてこれ以降何か特別な動きをしているわけではないので、これ以上新たな対策などの情報もありません」

インターネット上でのデパス個人売買

現在、麻薬・向精神薬取締法により政令で指定を受けた向精神薬の売買は免許制で、取り扱う企業、医療機関、保険調剤薬局などはその取り扱い状況などを厳格に記録し、保管することが定められている。これに違反すれば当然ながら罰則がある。

前述の厚労省監視指導・麻薬対策課の坂西氏によると、麻薬・向精神薬取締法による向精神薬の違法な製造・輸出入・譲受による検挙件数は2017年度が70件。毎年、検挙件数は数十件規模だという。もちろん厚生労働省もさまざまな対策を行っている。

「不正な販売を行うサイトの場合、海外のサーバーを利用していることも少なくありません。この場合、サーバーを閉鎖させても同じドメイン名で再開されるため、プロバイダーにドメイン閉鎖を要請します。また、オークションサイトなどでの出品に関しては、我々も企業の担当者の方々と意見交換し、向精神薬などを出品してはいけないという規約づくりや出品取り消しの対応をお願いしています」

しかし、現実にはインターネット上では今も個人同士などによる売買は行われていることがうかがえる。実際、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のTwitter上などでは「#(ハッシュタグ)デパス」で検索すると、「デパス譲ってください」「デパスあります。DMください」などのツイートを目にすることができる。

次ページ闇売買の経験者に話を聞いた
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事