遺産で肉親同士がもめないための生保活用法 父母がまだ元気なうちにやっておくとよい
ところが、「弟夫婦はお金に異様に執着心があるのです。どうやら、父の遺産をアテにしているようなのです」と、A子さんは重い口を開きました。ただし、お父様からは「子どもたちには、それぞれ不動産を相続させ、相続税の支払いのために生命保険にも加入しているから、何も心配することはない」と言われているとのことでした。
後日、A子さんから生命保険の内容を見てほしいと連絡がありました。拝見したところ、お父様の死亡時に支払われる保険金は、お母様・A子さん・弟の3人に、それぞれ50%・25%・25%の受取割合を定めた契約になっていました。
生命保険の受取人が複数の場合、保険会社の規定によりますが、代表受取人を指定し、代表受取人からほかの受取人へ送金するなどのやりとりが発生します。そのやりとりがわずらわしく、手続きに時間もかかる面倒があるものの、通常の場合、受取人同士でもめることはないでしょう。
直接のやり取りを避けたいのであれば、遺言執行者を相続人以外の専門家に依頼することで受取人同士がコンタクトを取る手間を省くこともできます。費用はかかるのですが、一考の価値はあるとA子さんにお伝えしたところ、安心されたようでした。
不仲な家族ほど生命保険の受取人には注意すべき
ただ、気になったのは、万が一お母様が先に亡くなられた場合です。本来であれば、お父様が保険会社に申し出て受取人の変更手続きを行えば、何も問題はありません。しかし、そのときにはお父様も年齢を重ねていて、健康状態・意思能力などの問題から、自ら手続きを行うことができないかもしれません。
その場合はどうなるでしょうか。お母様の受取割合50%については、保険法によると「相続人で等分する」ことになります。しかし、もし弟が多く受け取ることを主張してきた場合、保険会社は受取割合が決まるまで保険金の支払いを保留する可能性があります。あくまでもめた場合ですが、そのようなリスクもはらむ生命保険の契約であることをA子さんにお伝えしました。
後日、A子さんから連絡がありました。ご両親と話したところ、確かに弟の性格上、自分の取り分を多く主張しかねないと危惧しており、何か今のうちにやるべき対策があるなら教えてほしいとのことでした。もともとは25年前に契約した終身保険で、当時は家族の関係も良好だったそうです。そのため深く考えずに、勧められるままに複数の受取人にしたのです。
それから月日が経ち、子どもたちは伴侶を得て、今では弟家族とは絶縁状態でコミュニケーションを取れる状況にはありません。ましてや相続というお金に関わる話し合いを円滑に取れるとは考えられないと、A子さんもご両親もおっしゃいます。
懸念事項は、万が一お母様が先に亡くなられたときの保険金の分割についてです。「本来決まっている等分の割合では納得できない」と弟が言い出してきた場合、A子さんと弟で遺産分割協議を行うことになります。受け取る保険金の割合を話し合って決めるのですが、弟とは顔を合わせたくありません。
そこで私は、受取人からお母様を外し、A子さん・弟の半々に変更することを提案しました。今回はお母様に金融資産を相続させるため、やむなしと即決されました。将来、お母様が認知症になるリスクも考えると、保険金の受け取りに支障を来すことにもなるので懸命な判断と言えるでしょう。
このように相続人が不仲な場合、本来であれば何ら問題がない契約も厄介な事態を招きかねません。今から良好な関係を築こうと思っても、積年の感情で修復は難しいケースも多いかと思います。しかし、その場合には、生命保険がかえってトラブルを誘発することについては覚悟をしておかなければならないのです。
親にすれば、子どもが自分の遺した財産でもめるところなど見たくもないでしょう。もめるタネをまかないためにも、親の生命保険の内容について確認しておくことをお勧めします。
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