40年行方不明だったノーベル賞作家遺稿の中身 パール・バックが最後に書きたかったのは

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──人生の終焉を前に、ただひたすら言いたいことを飾らず書きつけた、という感じでしょうか?

ええ、終わりのない問いと向き合う主人公や登場人物たちに、自分を重ね合わせ、自分の思いをすべてちりばめた。

本来なら、もっと面白いエピソードを加えようとか、もっと真実味を持たせようとか、小説として喉越しがよくなるような工夫をしますよね。でも彼女はその次元を超えていて、「人生は驚異にあふれている。それが生きる根源だった。そしてまだその先を私は探求していく」という一心で書いている。なので、奇抜なプロットとかエンターテインメント性とか、そういう点で評価すること自体にあまり意味がないというか。

人生の終章の後にきっと真理がある

──もう1つ、終盤で、異邦人として生きる米中混血女性・ステファニーの深い孤独や絶望感が、横軸として交差してくる。ランの話との結節点が見えにくかったです。

『終わりなき探求』(書影をクリックするとアマゾンのサイトへジャンプします)

著者には言いたいことのほうが先にあって、ステファニーにそれを託すあまり、物語上の結節点がぼやけてしまったかもしれない。

パール・バックは中国とアメリカを行き来する中で、アジア人とアメリカ人の混血児が差別され社会の底辺に追いやられる現実を見てきた。それで彼らを救済する財団を立ち上げています。彼女は曲がったことを見ちゃうと、どうしても自分で是正しないと気が収まらない性分。本の売り上げは全部財団へ投じる。社会的正義に向かって、自分は物書きとして書かないと生きていけない! くらい熱かった。

──余命半年での執筆。「作品の不完全さはやむをえない」と戸田さんもあとがきで書かれています。

ランはあくまで自分の人生の乗り物。こうして自分は生きた、たくさんの知見を得てきた、でも知識ではわからないことも最後には残った。人生の終章の後にきっと真理がある、と自身の集大成として書いているように私には読めるんです。作品としての完成度うんぬんを超え、パール・バックという人の思いを知る本として評価を与えられてよし、と思うんですね。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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