「現代最強の経済学者」スティグリッツの挑戦状 ピケティと挑む「資本主義100年史」の大転換

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彼の経済理論を、惜しみなく隈なく実践に投入する彼の目的はなんなのか。それは、ほかでもない経済学(あるいは今ならcapitalism、資本主義)の副作用を緩和し、万人の生活を向上させることにあるように思える。

また、自身の経済学者としての名声のためではなさそうということは、時にはそれを危うくするような行動もいとわないからだ。

例えば、結果的に彼の名声を不動のものにし2001年のノーベル賞授与の理由となった「非対称情報下の市場経済」は、経済学が依拠する前提を根底から問うもので、当時の主流派を心底から寒からしめる反逆的な色彩のものであったし、四半世紀前から取り組んでいる「グローバリズム施策批判」は時の政府や巨大機関の権力に文字どおりけんかを売るものであった。

また、経済政策の歪みから暴動に発展しそうになればデモの先頭に駆けつけて同情を示しつつ説得を試みるなど、リスクをいとわない行動は枚挙にいとまがない。

彼は徹底して「経済学で万人の生活を向上させる」という目的のために身体を張っているように見える。並の経済学者とは一味も二味も違う存在といえるだろう。

傑出した理論家であり、稀代の武闘派でもあり、人々の生活の向上を願ってやまないこの最強経済学者はといえば、現在もご立腹のようなのである。

一貫して「格差拡大」に警鐘を鳴らす

スティグリッツは一貫して経済格差拡大に関して神経をとがらせている。それは、国内であっても国際間であってもそうで、悪意がある欺瞞(わざとそうしている)はもちろんのこと、悪意なき欺瞞(わざとではないがメカニズム的に不可避である)であっても見過ごすことをよしとしない。

そして、後者こそが経済学者スティグリッツの慧眼が冴え渡るところであり、理論と実践に通暁する彼の仕事の真骨頂でもある。

例えば1990年代後半に起きたアジア通貨危機の遠因は、プロの経済学者でも容易には気づけないものも多分にあった。そういう場合には(とくに先進国の専門家は)、つい発展途上国の未熟さのせいにしてしまいがちではある。

しかし、スティグリッツは、先進国の専門家のアドバイス(彼らはえてして先進国政府や巨大国際機関に所属している)こそが不幸な帰結をもたらしたのだと、メカニズム分析を通じて主張する。

専門家たちもよくよく言われてみればそのとおりかもしれないとは思うものの、ただすぐにはピンとこない(悪意のない)彼らにとってはなぜスティグリッツがそこまで憤慨しているのか理解しにくいケースもあるのだろう。

スティグリッツへの批判的な意見も勘案してみると、おそらくスティグリッツはメカニズムの構造がすぐにわかるがゆえに、不幸が引き起こされる帰結が目の前にありありと浮かんでしまい、瞬間的に憤慨してしまうといったこともよくあるのではないか。見えすぎることの副作用として、誤解されることも多いのかもしれない。

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