「ケーキ販売」コンビニだけが儲かる決定的理由 クリスマスケーキに見る各業界の工夫の差

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ケーキを販売する会社の多くが苦しむ中、唯一成功している業界がある。それがコンビニ業界だ。コンビニ各社は、10月1日から始まるクリスマスケーキの「予約販売」にも積極的である。

今年のローソンのカタログを見ると、まず1ページ目からチョコレートでコーテイングされた高級感漂うクリスマスケーキをどんと載せている。価格はなんと7560円(税込)。ローソンと言えば、コマーシャルでも頻繁に高級感漂うブランドとコラボした商品が紹介され、通常のスイーツ価格は300円以上に設定されることが多い。消費者には「ローソンのケーキは高級感がある」というイメージが定着しており、それが強気な価格設定を可能にしている。

セブンーイレブンは人気アイドルグループKing & Prince プロデュースの2000円台のケーキを充実させた。ファミリーマートは、食品ロスを減らすためケーキすべての販売を完全予約制に切り替えた。

売り場からも、各社のこだわりが見える。11月からセブンーイレブンとミニストップ、ローソンは「ザッハトルテ(チョコレートケーキの1種)」を販売している。総務省が発表する家計調査を2000年から年ごとに見ると、チョコレートはじわじわと支出が増え、2016年にはせんべいを追い越した。今では首位のケーキの支出額と僅差だ。

ザッハトルテなら、ケーキ好き、チョコレート好き両方の需要を取り込める。11月にザッハトルテでケーキのクオリティーを確認してもらい、12月のクリスマスケーキの販促につなげるといった施策も成立するだろう。

ケーキを売る業界に求められること

コンビニ業界が消費者の動向にいかに敏感かがわかる。では、不調の百貨店業界や、個人洋菓子店はどうすればいいのか? あえて提言するなら、2つのことが言える。

まず、「ショートケーキからの脱却」が必要だろう。ケーキといえば、多くの人にとって生クリームにいちごを組み合わせたものが定番だ。いちごは1980年代から、日本人の好きな果物ランキングで不動の1位である。しかし、対象を60歳以上に絞ると2位に落ちる。その理由は、イチゴのつぶつぶが入れ歯に挟まって、痛みにつながってしまうからだという。

高齢化に伴って、ショートケーキの代わりとなるケーキの需要が高まるはず。先述したザッハトルテが好調のように、ショートケーキ以外の定番商品を考える時期に来ているのかもしれない。

2つ目は、「潜在ニーズの掘り起こし」だ。総務省によると、今年だけで日本の人口は約44万人減った。ケーキを食べる人も今後、確実に減っていく。そんな中、ごく当たり前のことだが、1人ひとりの客の好みに丁寧に開拓することが求められる。

2007年、ファミリーマートが「男のシリーズ」という男性向けスイーツの発売をきっかけに、男性客の開拓に成功した。2009年には、ローソンが「プレミアムロールケーキ」で、「コンビニロールケーキ」ブームを牽引した。

今年は、定着しづらいと言われるチーズケーキの分野で、ローソンの「バスチー(バスク風チーズケーキ)」が発売3日で100万個を売り上げるなど大きな注目を集めた。

コンビニ各社は、新商品による潜在ニーズの開拓に余念がない。百貨店業界も個人洋菓子店もここに力を入れないと、さらにコンビニ業界の勢いに呑まれてしまうにちがいない。

池田 恵里 フードジャーナリスト

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いけだ えり / Eri Ikeda

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動、並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳のとき、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー10年以上、ファミリーレストラン8年などの商品開発を手がけ、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会会員 養鶏協会委員。

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