政府「高級ホテルを50カ所」に反対する人の盲点 「地方の良質な雇用」を増やす賢い投資になる

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「アメリカで最も観光客が来訪する(年間7500万人)フロリダ州オーランドでは15年前、現地DMO(観光地経営組織)が『最高級ホテルがないから、MICEの高消費単価セグメント(医療・薬学系や執行役員クラス向け展示会)が開かれない』ことを突き詰めました。そして『こんな暑いレジャー地に最高級ホテルなんて無理!』という皆の懐疑心や反対にめげずに、Four Seasons、Ritz Carlton、Waldorf Astoriaクラスのホテルを誘致したのです。

当時は、観光客はTシャツと短パンで歩き回るレジャー客が中心で、ADR(平均客室単価)が80ドルぐらいの時期です。その後、ホテル開業とともに、高消費単価層のMICEが次々と獲得できるようになりました。

今や、歴代第1位のシカゴを破って、オーランドがMICE開催数全米第1位の地位を獲得するまでになりました。これは、需要が顕在化していない層に対して供給を先行させた、地域経営判断が機能したからです」

これまで日本の観光業は、主に国内観光客のファミリー層や団体旅行を相手にしたものでした。そのため庶民的な大型ホテルがもてはやされ、5つ星ホテルの需要はそれほどありませんでした。しかし、外国人観光客にこういったホテルの需要があるのは明らかです。

実際、政府は2年前から、より長期間滞在してもらえて、単価が相対的に高いロングホール(欧米豪など、遠いところからの観光客)の観光客誘致に力を入れてきました。実績も順調に積み上がっており、高級ホテルの需要も増えています。今度は中東の富裕層の誘致にも力を入れることになっていますので、なおさら高級ホテルの開発が求められます。

日本人も、国内では高級ホテルに宿泊しなくても、海外旅行の際には5つ星ホテルに泊まるという方も多いでしょう。外国人観光客向けのビジネスを「日本国内の常識」で語るのは間違いのもとです。

また、タイミングの問題もあります。1990年以降の日本人観光客の減少、1990年代の金融危機、デフレの影響で、日本の宿泊業界はすっかり疲弊してしまいました。国内観光客が減り始めたときにインバウンド戦略に切り替えていれば、民間資本で5つ星ホテルの整備ができたかもしれません。しかし今となっては、多くの観光地にそのような投資をする余裕は残されていません。

本来ならば、昭和の国内団体客のためにつくられた大型ホテルを壊して、外国人観光客向けに高品質なサービスを提供する高級ホテルへとつくり変えなくてはいけませんが、その体力もありません。

「富裕層が来てからつくる」では永遠に富裕層は来ない

まずは観光資源を整備し、実際に富裕層が来るようになってから高級ホテルをつくるべきだ、という反論もあります。要は「コンテンツが先か、ホテルが先か」という議論ですが、日本ではホテルの役割を軽視する傾向があります。実は高度な文化体験などのコンテンツを生かすには、ホテルが重要なのです。

どんなに魅力的な文化体験を企画しても、どんな強力な観光資源があっても、自分に合った宿泊施設がなければ観光客はやってきません。それが世界の観光ビジネスの常識です。それほどホテルの集客力は重要なのです。

このような認識は、高級ホテル側もまったく同じです。世界20カ国で高級リゾートホテルを展開するアマンリゾートの創業者であるエイドリアン・ゼッカー氏にこの件について質問したところ、このように答えてくれました。「需要もない、何もないような地域であっても、すばらしい滞在体験ができるハイラグジュアリーホテルを開業すると、人が集まってくる」

アマンリゾートの場合、「Aman junkie」と呼ばれる何十万人の熱烈なファンがいます。その国の観光ではなく、アマンリゾートに宿泊することを目的に海外旅行をする人も珍しくないというのです。それによって、その国を訪問する新しい客層を獲得することができます。

このような抜群の集客力を誇る高級ホテルが、もし日本全国に50カ所できれば、周辺の観光資源もかなり恩恵を受けます。地方の観光戦略に大きく寄与できるのです。

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