保守党圧勝、離脱実現でも安心できない英国 ジョンソン首相、次の試練は短期間のFTA交渉

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英国はEUを離脱した後も、来年12月末まではEUのルールを受け入れ、これまで同様にEU市場への自由なアクセスが認められる。これを「移行期間」と呼ぶが、その間に英国はEUと包括的な自由貿易協定(FTA)を結び、2021年からは新たな将来関係を開始することを目指している。

過去にEUが締結した自由貿易協定は、交渉開始から協定発効までに最短で4年掛かっている。来年1月末の離脱から同年末の移行期間終了までに残された期間はわずか11カ月。欧州議会や各国議会の批准作業を考えると、実質的な審議期間は8~9カ月が関の山だ。この短い期間で自由貿易協定をまとめるのは至難の業と言える。

FTAの締結なければ、合意なき離脱同様の混乱に

英国とEUとの合意案では、両者の合意に基づき、移行期間は1回かぎり、1年もしくは2年延長することができる。だが、移行期間中はすでに離脱をしているにもかかわらず、EUのルールを受け入れ、EU予算に追加で拠出し、欧州司法裁判所の司法管轄下にとどまる。これは強硬離脱派が猛反発したテレーザ・メイ前首相の離脱案(移行期間終了後も暫定的にEUの関税領域にとどまる)と何ら変わらない。

保守党は今回の選挙戦で移行期間を延長しないことを公約に掲げて戦った。「離脱実現」を求める有権者の声を考えれば、移行期間の延長は難しい。移行期間の延長は来年7月1日までに判断しなければならない。そこで延長を求めなければ、新たな協定をまとめない限り、移行期間を延長する法的な枠組みはなくなる。

このまま移行期間が延長されず、来年末までに自由貿易協定が締結されなければ、英国はEU市場への自由なアクセスが遮断され、合意なき離脱時と同様の混乱に見舞われる。離脱の先に待つ新たな“崖”に注意が必要だ。

田中 理 第一生命経済研究所 首席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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