井上尚弥が「2028年に現役引退」を宣言する理由

日本最高のボクサーが語る「理想の引退」

「30歳手前って言えば、あと4年しかないよ。お父さんは、デビュー10年で引退という考えかもしれないけれど、今の時代に10年では短くない? だったら、ここからあと10年、頑張らせてよ。35歳の引退でいいんじゃない?」

そう返すと、父は、しぶしぶ、納得していた。

プロになった当初、引退の日はもうダメだというくらい、打ちのめされボロボロになって終わりたいと考えていた。何度もダウンして、自分で自分の限界を知って負けて終わろうと。それがボクサーという職業を選んだ男の宿命で、僕が倒してきたボクサーたちへのリスペクトの証しになるのではないか。去り際は、「あの井上尚弥がやられちゃったね」と、哀れみを浴びて、ぱっと散る。敗者の美学だ。

でも、それはボクサーとしてのエゴイズムなのかもと思い始めた。引退はボクサーとしてのゴールだが、人生のゴールではない。日本人男子の平均寿命は約81歳だという。35歳ならば、人生の折り返し地点にも差し掛かっていない。まだ人生は半分以上残っているのだ。僕には大切な家族もいる。いつの頃からか、第二の人生のスタートをいい形で切るには勝って終わりたいと考えるようになった。

理想はメイウェザーか長谷川さん

引退するまで負けられない。やはり理想はチャンピオンのまま勝って引退することなのだ。元5階級制覇王者のフロイド・メイウェザー・ジュニア(アメリカ)のように無敗のまま辞めるのが理想だが、WBC世界スーパーバンタム級のベルトを取り返して防衛戦をしないまま引退した長谷川穂積さんのように最後にチャンピオンに返り咲いて終わるのもいい。

過去、日本人で世界チャンピオンのまま引退したのは、その長谷川さん、元WBC世界スーパーフライ級王者の徳山昌守さん、そして、不慮の自動車事故で亡くなられた元WBA世界フライ級王者の大場政夫さんの3人しかいない。

ただ無敗のまま引退したボクサーは1人もいない。何も伝説のボクサーになるつもりはないが、例えば、引退カウントダウンを設定しながら、フィナーレに向かうのもボクシング界では過去に例がなく面白いかもしれない。そういう舞台を整えれば「やっぱりもう1試合」ともいかないだろう。

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