三菱地所、「手探り感満載」の有楽町再開発 どんな街になるかは、誰にもわからない?
足元では好調を維持するオフィスビル業界だが、いつどこでも働ける文化が浸透していけば、仕事をこなすためだけに設計されたオフィスの魅力は減退していく。そこで不動産各社は「そこに行けば誰かがいて、何かが起こる」空間作りに精を出す。その1つが、スタートアップをはじめとする異業種との出会いである。
地所はこの数年、ベンチャー企業への接触を加速させている。2007年、新丸ビルに構えた海外企業や国内ベンチャー企業の育成施設「日本創生ビレッジ」を嚆矢とし、2016年に同様の理念を掲げた「グローバルビジネスハブ東京」やフィンテック企業向けの「フィノラボ」、さらに今年2月にはオープンイノベーション拠点である「インスパイアードラボ」を大手町に開設した。
昨年3月には、地所が保有する丸の内北口ビルディングにウィーワークが入居した。テナント誘致の担当者は、「大丸有というエリアの中に、(大規模や小規模、シェアオフィスなど)さまざまなビルの選択肢を増やしたい」と話す。スタートアップ企業をはじめとするこれまで大丸有の住人ではなかった人々を招き、大企業との化学反応を期待する。
「偶然」頼みの成否
偶然の出会いを事業として展開するのは地所だけではない。三井不動産は2016年に、生命科学分野の企業や大学同士の交流団体「LINK-J」を設立。日本橋を拠点に年間400件以上のイベントを開催し、異業種との掛け合わせを促す。ほかにも森ビルや森トラスト、東急不動産に東京建物など、分野や手法は違えど異業種との交流をウリにするのは不動産各社共通だ。
折しも地所が有楽町で発表会を行ったのと同日、ウィーワークも渋谷スクランブルスクエアに新たな拠点を開業した。約3500席と国内最大の規模で、入居を決めた大日本印刷の新規事業担当者は、「ウィーワークに入居している事実だけで、『何か新しいことをしたいんだな』ということが伝わる。規模も大きく、さまざまな企業と出会える機会がある」と利点を話す。
むろん、偶然は必然ではない。いつどんな新規事業が生まれるかわからず、つぎ込んだ時間や金が無駄に終わることもある。「偶然ビジネス」が勃興する背景には、短期的な成果を追求する必要がないほどに、企業の業績が好調だという事情もある。同じく渋谷のウィーワークに入居したアサヒビールの新規事業担当者は、「本社も今のところは、長い目で成果を見守ってくれている」と話す。だが今後企業に余裕がなくなれば、不確実性に頼る事業が不採算部門とみなされる懸念はくすぶる。
今回地所は2つの施設を立ち上げたものの、今後の計画はまったくの白紙だ。「次の拠点を立ち上げるかもしれないし、成果が出なければ今後の有楽町の開発には反映されない可能性もある」(吉村友宏・丸の内開発部ユニットリーダー)。何が正解かが見通せない中、地所自身も偶然に身を投じる。今後有楽町がどんな表情を見せるのかは、地所を含めて誰にもわからない。
ともあれ賽は投げられた。どんな目が出るかは誰にもわからないが、投げなければ始まらないことは確かだろう。
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