母になっても恋愛する「40代女性たち」の心情 『恋する母たち』の作者、柴門ふみ氏に聞く

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恋や結婚に対する態度は、男女で違うように見える。男は多くの人と同時に恋愛することができ、女は1つの恋が終わるときれいに忘れて次へ行く。そういうパターンは目立つが、同作のシゲオのように妻一筋の男性もいるし、恋愛体質で複数の相手とつき合う女性もいる。

そして、お金を持てば婚外恋愛に飛び込みやすくなるのは、男も女も同じだ。それが1980年代には男性だったが、今はお金と権力を持つ女性が増え、優子のような恋が成立しやすくなっている。一方で、若者たちは仕事で忙殺され、SNSで1日中たくさんの人とつながっていて、1人に集中して関係を築くことが難しそうだ。

人間の本質は変わらないが、時代が変われば表面的な事情やシチュエーションは変わる。だから、恋愛が時代によって様相を変えるということなのだ。

恋心に気がついていないだけかもしれない

柴門氏が言うところのアプリがもし、誰にでも“埋め込まれている”のだとすれば、もしかすると問題は起動に気づく注意深さなのかもしれない。恋は衝撃の出会いから始まる場合もあるが、気づかないうちに静かに始まっていることも、忙しさにかまけているうちに淡い思いが育たず去ってしまうこともある。

シングルの人は、その気持ちを育てていけば、大切な人ができるかもしれない。逆に決まった相手がいる人は、静かに恋心を葬り去ることが、大切な人に対する誠実さなのかもしれない。しかし、人は出会う順序まで選べない。すべてを失い周囲を傷つけてでも、新しい相手がかけがえのない存在と思うかもしれない。人の数だけ、相手の数だけ、異なる物語が成立し、何を正解とは言えないのが、恋なのだろう。

『恋する母たち』のキャラクターをはじめ、恋愛物語に登場する人たちから学べることがあるとすれば、それは物語に登場する人物たちが、恋する心に真摯に向き合っていることだ。相手に真摯に向き合わない人も、自分の恋心には誠実だ。今の時代、恋愛が難しくなったと言われがちな本当の理由は、自分の恋心に誠実に向き合う心の余裕を失った人が多いことを表しているのかもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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