「まじめえひめ」「人生会議」が酷くスベッた理由 お役所のウケ狙いはハイリスクローリターン

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ネットの影響力が大きくなるにつれて、「バズれるなら多少悪い意味でも構わない」「批判を受けても知られていないよりはマシ」というPR戦略も目立つようになり、実際にそれで成果を挙げている人や団体があるのも事実。ただ、人々の税金で成り立っている公的機関のPRは、いい意味でのバズり方でなければ批判が殺到しやすく、マイナス面が大幅に上回ってしまいます。その点、今回の動画も多額の税金を使って作られた以上、批判を受けやすいのは当然であり、バズるためのウケ狙いはハイリスク・ローリターンと言わざるをえないでしょう。

愛媛県は「批判は受け止めつつも、今のところ動画の配信中止は考えていない」という姿勢を見せています。つまり、「これくらいの批判なら中止するほどではないだろう」という判断なのでしょうが、このような冷たい対応に終始しがちなのが公的機関のウィークポイント。「笑ってもらおうとしてスベってしまいました。すみません……」と正直に話すなど物腰の柔らかさを世間に見せたうえで、深く傷つけてしまった人がいれば個別に詫びていけばいいのではないでしょうか。

生死、出自、生き方に関する言動は要注意

ちなみに、今回問題視されている動画は4月から公開されていました。関係者の中には、「何で今さら」と思っている人も少なくないでしょう。

しかし、生死、出自、生き方のような誰かを傷つけやすいセンシティブなテーマに「今さら」という時効はありません。これは公的機関だけでなくビジネスパーソンも同様で、たとえば5年前のツイートであっても、センシティブなテーマに踏み込んだものであれば、信用をなくしたり、立場を失ったり、家族や友人に去られてしまうこともありうるでしょう。

さらに気をつけたいのは、知名度の高い個人や団体。芸能人が数年前の言動を「今さら」持ち出されてバッシングされるのと同じように、企業トップや業界の有名人、公的機関や大企業など、知名度の高い存在は「過去のことだから」と油断はできないのです。

愛媛県の担当者が本当にまじめな人であれば、このような動画を配信することに心苦しさを覚えたのではないでしょうか。人間である以上、間違った判断をしてしまうこともありますが、大きな仕事ほど「傷つく人がいないか?」を考えられるまじめさを持ったビジネスパーソンでありたいものです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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