弘兼憲史「定年後に田舎暮らしなんて甘すぎる」 逆に都心に住むのも粋な選択肢の一つだ

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終の住処を都心に求めて、遠い郊外から引っ越した人の話だ。

郊外の広い家を売って、都心に夫婦で住めるごく小さなマンションを買った。

「確かに空気は悪い。でも子どもはもう出ていったから、夫婦だけなら空気が悪かろうが、いずれ死ぬわけだからいいんです。大病院だって都会にあるし、そこの先生方だって都会で働いているんだから、絶対に健康に悪いというわけではないでしょう」

田舎暮らしは便利さを放棄し、都心暮らしはきれいな空気を放棄する。腹のくくり方次第だ。

街を歩くオシャレな老人になる

都心暮らしが夢だったという。

「大病院は近くにある。店は何でもそろっている。ナイターを夫婦で観ても、帰りはマンションまでタクシーで15分以内だから、ゆっくり外食ができる。映画館も劇場も近いし、デパートの催し物も毎週観ることができる。

旅行するのだって、東京駅も羽田空港もそばにあって便利。前住んでいた所は、羽田空港まで2時間以上かかったけれど、今は30分。

緑なら公園がある。新宿御苑も神宮の森も、緑の濃さではどこにも負けていない気がする。週末の都心人口は激減するから、どこでもゆっくり散歩できるんですよ。

それに繁華街情報、飲食店情報、イベント情報は毎週雑誌で紹介される。先週は渋谷に行ったから、今週は浅草に行ってみようか、気軽にそんな気分になれる。

『俺たちの老いじたく 50代で始めて70代でわかったこと』(祥伝社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

マンションだから人付き合いの煩わしさはない。夜は静かだ。都会脱出というのは、本当に都会の楽しさを知っている人が言うのだろうか。

都会だから、あんまり変な格好はできない。オシャレなステッキも買ったし、ウォーキング・シューズもいいヤツ買いました」

歳を取ったら田舎に引っ込むか、家で盆栽でもいじるか。これまでの日本人ならそういう選択をしてきたが、都会を歩くオシャレな老人になってやる手もある。

革のパンツで赤いマフラーを巻いて、頭に犬の顔を彫ったステッキで銀座を、本郷を、上野を散歩するのだ。タウン・ウォッチングがはやりだが、高齢者には高齢者の楽しみ方がある。蝶ネクタイで決めて都内のソバ屋巡りもいいし、都内にある温泉巡りもいい。神田古書街を散策して、昔読んだランボーとか白秋の詩集を探すのもいい。

定年後は都心に住むのも粋な選択肢の一つだろう。

弘兼 憲史 漫画家

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ひろかね けんし

山口県出身。早稲田大学法学部卒。松下電器産業(現パナソニック)勤務を経たのち、1974年に漫画家としてデビュー。現在、『島耕作』シリーズ(講談社)、『黄昏流星群』(小学館)を連載するほか、ラジオのパーソナリティとしても活躍中。

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