弘兼憲史「定年後に田舎暮らしなんて甘すぎる」 逆に都心に住むのも粋な選択肢の一つだ

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定年後の夫婦の住処として、田舎の空き家になっている農家を買い取った人がいる。

築50年で相当古い家だ。

古くても構わないと判断した。子どもが将来そこに住むとはとうてい思えないから、夫婦が生きている間だけ家が建っていればよしとした。「家が倒れる前に自分たちが倒れればいいわけです」と言う。

週末に車で通い、庭に作った小さな畑の世話をし、家の中のこまごまとした補修をする。

その都度近所には、手土産を持ってあいさつする。週末にやってくる夫婦に、村の人も徐々に胸襟を開き、「あんたの畑、あれではダメだよ」「今度来るときまで、花見といてやるから」と言われるようになった。

「いきなり引っ越して来るから相手も面食らうわけで、週末に顔を出していればいつの間にか受け入れられるんじゃないですか」

田舎暮らしをするのなら、いずれにしても今から少しずつ行動したほうがいい。

ジープ1台であちこち行く

定住は面倒だから、別荘にするというのも安易だ。別荘のメンテナンスは相当大変だ。家は空けておくだけで傷みだす。湿気の多いところなら、木のベランダなどすぐに腐ってしまう。雨漏りを修理するだけで、20万~30万円ぐらい軽く出てしまう。

もっと現実的なことをいえば、別荘に通う交通費がばかにならない。ガソリン代、高速料金を含めると1万円を超してしまうこともある。

「別荘を持つのなら、1年のうち少なくとも半年ぐらいはそこで生活しないとね。年3〜4回ぐらいだったら、ホテルとかコテージを借りたほうが楽ですよ」。これは別荘を持った人の感想だ。

あえて田舎暮らしや別荘でなくてもいい。車を小さなジープに買い替えて、週末になると郊外の山に向かい、一日中、山を歩いて帰ってくる、そういう自然との付き合いをする高齢者がいる。

「別荘といえば財産じゃないですか。できればジープに一切合切のせられるものだけが財産というのがいい。身軽であっちこっち行けるし」

田舎暮らしも別荘も資金が必要だ。この人に資金がないわけではない。生活の幅を広げたくないし、どんなつまらない苦労が待ち受けているかわからないから、生活の変化をあまり歓迎しないのだ。

街の小さな家と、山や川を行ったり来たりするだけで十分満足だという。

「最近は釣りを覚えて、ジープに釣り道具一式と、簡単な調理道具を積んでいる。けっこう妻も楽しそうですよ」

60をとっくに過ぎた男が白髪の妻を助手席に乗せてジープを走らせるなんて、かっこいいじゃないか。

田舎暮らしや別荘暮らしを何が何でも求めなくても、自然はいつでも楽しめるということだろう。

次ページ都心に終の住処を求めて、引っ越してきた人の話
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