弘兼憲史「定年までに50代男が心得たいこと」 妻と一緒にいたいなら自立しなければならない

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家事を顧みないことは、結果的に妻の仕事を評価していないことだ。仕事を評価しないことは、その人間を軽視することだ。そんなことはないと言いたいだろうが、仕事を家事より上に置いているかどうかはすぐわかる。

家事が会社の仕事と同じように大切なら必ず助けるはずだ。同僚の仕事なら、相手の疲労度や忙しさを見て手伝うだろう。仕事なら手伝うのに、家事でそうしないのは家事を仕事以下のものと思っているからだ。そして妻を下働きぐらいにしか思っていないからだ。

だから妻が料理、後片付け、洗濯、アイロンかけ、掃除、子どもの面倒と目まぐるしく家の中を行き来している横で長々と寝そべってテレビを観ていられる。しかも妻は、夫が妻という立場を軽視していることも知っている。これでは不満がたまるはずだ。

夫は「妻といるとき」、妻は「1人のとき」を居心地よく思う

さらにかなりの男は、「自分が家にいるときは妻に外出してほしくない」と思っているというデータがある。日曜日に妻が外出しようものならムッとする。

外出は妻の息抜きかもしれない。学生時代の友達と駅前の喫茶店で会って、夫の愚痴をこぼしあい、せいせいとして、また家事をする元気を取り戻しているのかもしれない。

でも、定年になればこれも難しくなる。夫が家にいるのは週末だけではない。

ほぼ毎日なのだ。サントリーの調査では、居心地のいい時間を団塊の世代の男は「妻と一緒にいるとき」と答えたのに対して、妻は「1人のとき」と答えている。つまり妻の夫離れは予想外に進行している。

定年になれば夫が毎日いることになる。そうなれば妻の居心地のいい時間はなくなってしまう。そう思っただけで憂鬱になり、心身の症状が表れるのだ。病気の原因は夫が家に居続けることだ。

なぜそうなってしまうのか。原因は夫が自立していないこと、それだけなのだ。自立していない証拠に、妻が入院しただけで、みっともないくらいうろたえる。

町会費はいくらで、どこの銀行から引き落としているのか。自動車保険の満期はいつでいくら支払うのか。外からの問い合わせに一切答えられない。

自分で靴下を脱いだことのない男が、退院して自宅療養している妻の前に、足を投げ出して脱がせたという話もある。これは明治生まれの男だから、いくらなんでも団塊の世代にはいないだろう。

次ページでも旅行に行こうとすると…
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