義父母の世話を見続けた長男の嫁まさかの悲劇 特別寄与分をもらうために備えるべきこと

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最後の数年は、予想以上に長く厳しいものとなりました。徘徊はしょっちゅうですし、自分の排便排尿を部屋中にまき散らすこともありました。英子さんを認識して、感謝してくれることもありません。英子さんは、つらくて泣き出してしまったこともしばしばありました。

でも、則夫さんという夫と生涯を共にし、その親である義父母にはお嫁に来た頃からやさしくしてもらった、孫もかわいがって育ててもらった、一緒に旅行も行った、いろいろな思いがあって、英子さんは義父母を自分の親と思ってこれまで生きてきたのでした。

遺産分割協議ができるのは相続人のみ

そんな両親を見送って、一息ついたとき、義父の葬儀で実家に帰ってきた義弟と義妹がこんなことを言い出しました。

「母さんは大した財産なかったけど、父さんは銀行にまとまった預貯金や自宅なんかの不動産があるから、ここできちんと遺産分割協議書を作って相続することにしよう」

遺産分割協議とは、遺言がない場合に相続人全員で話し合って、亡くなられた方の相続財産の分け方を決めることを言います。遺言がない場合は、遺産分割協議によって相続人が相続財産を取得しますから、逆に言いますと、相続人でない人は、遺産分割協議に参加することもできませんし、相続財産を取得することもできません。

また、従来「寄与分」という制度があり、被相続人に対し、無償で療養看護等の特別の貢献を行った者に対し、「寄与分」という上乗せの取り分を認めているのですが、この制度の対象は「相続人」に限定されているのです。つまり、ほかの「相続人」と比べ、親の介護など特別の貢献を行った「相続人」に対しては、多めの取り分を認める、という制度です。

英子さんの場合、長男の嫁、という立場ですから、相続人ではありません。遺産分割協議に参加することもできませんし、「寄与分」制度の対象外であるため、寄与分を主張して何らかの相続財産をもらうこともできないのです。

英子さんが長年暮らしてきた義父母の家も義弟や義妹の財産となりますから、ひどい場合には出て行かざるをえないかもしれません。

現実的には、親と同居する息子の嫁が義父母の最期まで日常の世話や介護に尽力する、大変な貢献者である場合が多く見られるのに、実に理不尽な話です。

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