最新AIの「創造性の先」に求められる人材とは 次世代AI社会で求められるのは「共感力」だ

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「しかしAIはトレンドを読み取ることはできません。デイトレードのような細かな取引には向いていますが、ベンチャーなどの事業を評価し、今後のトレンド予測とすり合わせながら解釈したうえで判断するのは人間です。

投資すべきかどうかを判別する環境も変化するためAIには向きません。しかも、投資家の提案内容や投資先の雰囲気や組織としての評価など、デジタル化が難しい情報も加味せねばなりません。人間にはコミュニケーション能力があるため、デジタル化できない情報を用いることができるのです」(ミン氏)

今後、必要とされる人材とは?

話を整理しよう。

AIは“未踏領域”の研究開発にも使われ始めた。深層学習によるAIは、過去にあったアイデア、事例などを学習させたうえで、その間にある事例サンプルを補完したりその結果を再入力して成長することはできる。しかし、未知の情報や既知の情報を予測、推測した事例サンプルを作り出すこと(専門用語で外挿という)は不得意だ。

このため、AIの開発者は外挿領域をどのように探索するかについて考え、定量化された評価を行うための仕組みを構築しようとするが、世の中のほとんどのことは囲碁よりもはるかに複雑で、完璧にプログラムすることはできない。

つまり、外挿領域の方向をどうコントロールするのか、またAIが選び出した結果を評価し、よりよい解決策を選び出すには、今後も人間が行ったほうがよい結果が得られる。

例えば、昨今はコンピュータービジョンを応用した、生産技術の質を高めるシステムが実用化されている。カメラやセンサーの情報を活かし、問題を発見して警告を発することで不良の原因を発見したり、あるいは設備故障をあらかじめ予防することも可能だ。

「コンピュータービジョンの生産現場への応用は極めて実用的なレベルにありますし、履歴から“傾向予測”は可能です。しかし“正しい解決策がなにか”を探索できるところまではいきません。予防的に質を高めるため、どのような方向で調整を加えるべきなのか、熟練工の直感がなければ、いくらシミュレーションを強化してもよい結果を得ることはできません」

つまり、AIは「創造的に振る舞う」ことはできても、発想を膨らませ、多くの細かな情報をまとめて「直感」による行動はできない。

「AIには“同情”や“共感”はありません。“ニュアンス”という曖昧なものも理解できません。このことはさまざまなジャンルの仕事で、AIが人間を代替できないことを示しています。特定の業務で定量的な作業と情報の整理をAIが行い、最後の判断を人間が行うことで時間を節約できますが、最終的によい選択肢が選ばれたかどうかは人間が決めなければならないのです。

例えば医師が診断のためにAIを活用したとしましょう。その診断結果を納得させる形で患者に伝えねばなりません。共感も同情もないAIに、患者に診断結果を伝える能力はありません。しかし、感情、思いやり、創造性を得意とする人間が、論理、規模、速度といったAIの長所を道具として使いこなせば、よりよい社会へと進むことが可能です。

AIが進化すれば、AIとロボットが世の中を支配するといった神話が語られることもありますが、私たちは“人間のように行動するAI”は必要としていません。人間とは異なる特徴を持つからこそ、AIは必要とされるのです」

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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