最新AIの「創造性の先」に求められる人材とは 次世代AI社会で求められるのは「共感力」だ

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「この方法は、新しいクスリを開発する“創薬”分野で大いに役立ちます。新薬をデザインするための化学式パターンは無数にあります。これまでは、新薬のもとになるタンパク質の構造と薬となる化合物の組み合わせを、創薬に関わってきた研究者の直感に従って、選んでその作用を観察してきました。

この研究シミュレーションを、すべて計算だけで行おうとすると途方もない時間がかかります。そこで、生化学分野の重鎮たちの考え方や組み合わせの探し方などを教えて、“探索の方向”を教え込むことで正解を見つけやすくする、といった取り組みが行われています」(ミン氏)

すなわち、人間の経験から得る感覚をAIに組み込むことで、創薬の効率を上げるということだが、この場合も決して人間の役割は軽くならない、引き続き重要だと強調する。

「探索する方向を決めていくため、フィードバックは必要です。フィードバックの精度を高めていくには、人間の感覚も重要なんです」

そうミン氏が話すのは、“AとBのどちらがよりよい結果なのか”を人間のほうが、より正しく多くの情報をもとに判断できるからだと話す。

「囲碁のように限られた条件下であれば、読み切ることができるため、どちらがよい結果になるかは簡単に読めます。しかし、創薬のように簡単にシミュレーションできない場合は、研究者の経験や直感に基づく判断が欠かせません」

クリエーティブなAIが不得手な分野とは?

具体的にどのように、シミュレーションなしに未踏領域へのAI活用を進めるかは、まだ試行錯誤の段階だ。しかし、すでに深層学習を用いたAIによる新システムはさまざまな分野で応用されている。

それらの中に、人間の介入やシミュレーション探索によるフィードバックを加えていけば、初歩的な創造性を獲得できることは想像に難くない。では、AIが「学習が可能な範囲」だけで成り立っていた時代から、創造性を持つAIへと進化していく中で人間の役割はどう変わっていくのだろう?

「人間が優れているのは、データが少ない状況でも過去の経験から選択肢を絞り込めることです。コンピューターは“想像する”ことができませんから、“手当り次第にやってみる”しかありません。しかし、“なんとなくこんな方向でやってみる”といった曖昧な方向づけを行って実践と評価を繰り返すことは人間が得意とするところです」(ミン氏)

その能力を最も生かせるのは、つねに環境が変化するジャンルの仕事だ。

例えば、前述した「創薬」に関して研究の前提となる条件(タンパク質や化学物質の構造など)には普遍性がある。したがって、ひたすら計算を続けていくことができるため、AIが極めて役に立つ。

株式の投資判断そのものに関しても、過去に膨大なデータがある。株式取引に関する新たな展開はなく、ルールも普遍的であるため、もはやAIによる投資は当たり前のものになった。そこに“投資レポート”というテンプレートを加えれば、まるで人間が書いたかのような投資レポートを生成することも可能だ。もっと身近なところでは、税理士に委託している業務などは、その大多数がAIで代替できるだろう。

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