最新AIの「創造性の先」に求められる人材とは 次世代AI社会で求められるのは「共感力」だ

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しかし、「過去にあった事例」に近いAIを作り上げることはできても、まったく新しい人格を作り上げ、広く共感をもたらす歌手や俳優をゼロから作ることはおそらく難しいだろう。アーティストの創造は極端な例だが、しかしもっとシンプルな領域でも、AIに共感能力がないことは明らかだ。

「現在、ビジネスの世界で使われているAIという意味では、それらに創造性がないことは明らかです。例えば、デジタルマーケティングのジャンルで使われているAIの中には、何度も繰り返し同じ広告を特定ユーザーに見せようとするものもあります。利用者からすれば、興味がないからクリックしていないのに、何度も見せられると“またか!”とげんなりします。

AI側はさまざまなデータの分析から、適切な広告を表示しようとしているのでしょうが、人の心に寄り添うものではありませんし、創造的でもなんでもありません」

そうミン氏は話すが、一方でAI技術は次のステージへと変わりつつあるという。

「AIを進化させ、未知の領域を開拓する“創造性”をもたらそうという研究・開発は、この3~4年で大きく進歩しています。まだ進化の入り口に立っている段階ですが、AIは限定された分野において“創造力”を持ち始めています」

ミン氏が言う“創造力”は、過去のデータを学習した結果で得られた選択肢以外に、未知の選択肢を探索する能力を組み込むことで得られるものだ。

「深層学習などの手法で鍛えたAIを用いて選択肢を絞り込むだけでなく、絞り込んだ選択肢の周辺領域に、未知のよりよい選択肢があるのではないか?と、AI自身がシミュレーションを重ねて探索し、それまでにない答えを探すのです。

典型的な例はグーグルのAlpha Goです。Alpha Goは深層学習を取り入れていますが、加えてあらゆる打ち手を探索する(いわゆる読み切り)を行うことで最もよい手を探し出します。過去の打ち手、定跡にとらわれず、“まったく新しい手”を生み出すのですから、これは“創造性”といっていいでしょう」(ミン氏)

人間の場合は、経験や知識を前提にした「感覚」やその場の雰囲気を読み取った「共感能力」で、新たなアイデアを創造したり、行動にアクセントを加える。それらはAIには不可能だが、しかしすべての可能性を探索すれば、未発見の答えを見つけることができる。AIの創造性とは、未発見の答えを探すことと言い換えることができるだろう。

「創造性を持つAI」には、人間の手助けも必要

「しかし、AIが創造性を保つためには現実には人間の手助けが必要です。よりよい結果を探索していくには、より多くの情報を与えねばなりません。膨大な規模の検索をAI自身で行うわけですが、それ以前にデータを与えなけれならない。そして探索の範囲が広がるほど、有益なデータを見つけられる可能性は下がっていきます。

例えば、ある人が“セブ島に旅行に行こう”という話を誰かにしたとします。旅行が結果として中止になっても、人間なら“この人は南の島が好きなんだな”と判断するでしょう。嫌いだったら、わざわざ話をしたりはしないからです。しかし、AIには常識や直感を求めることはできない。ひとは“過去の履歴”という情報がなくとも、イマジネーションを膨らませることができるが、AIにはできない」(ミン氏)

そこで、ミン氏が開発をリードしているAppierのシステムでは“常識データ”として与え、新しい情報を検索していく方向を定めるよう設計しているという。“常識データ”とは人間が考える“方向性”を示すものだ。

あらゆる可能性を探索しようとすると、計算量が爆発的に増加するため不可能だ。しかし、経験のある人間が共感や感覚といったコンピューターが持ちえない感覚や過去の経験を生かして探索の方向性を定めることで、不可能だった“未踏の領域”を探索するAIを実現できるという。

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