NECで顔認証一筋20年取り組む男の仕事哲学 世界一を続けられる理由を今岡仁氏に聞く
しかし、現状は海外での事例のほうが圧倒的に多く、日本国内での進みが遅い傾向にあるという。一方で再三触れているように、中国からは日々センセーショナルなニュースが飛び込んでくる。この違いはいったいどこに起因するのか。「世界一の技術」の実用化へ、国内の何が妨げになっているのだろうか。
「セキュリティーとプライバシーに関する国ごとのスタンスの違いが大きいと思います。ざっくりと言ってしまえば、日本やヨーロッパは安全を取るのに対し、中国は利便性を取る。その中で、NECは前者の立場を取っています。
誰にでも信頼して使ってもらえる未来に向け、慎重に議論を重ねることを大切にしているんです。しっかりと議論を重ね、社会のコンセンサスを醸成することが、最終的に信頼される技術をつくることになるだろう、と」
ただ、今岡さんは決して中国のやり方を否定しているわけではない。このようにさまざまな動きが出てきていること自体が、顔認証の性能がよくなり、「使える技術」になってきたことの何よりの証拠。そして、たくさん使われることで新たな論点が見つかれば、そのことによって議論がまた進む。
「議論して白黒が決まれば、白い部分は信頼して使えるようになる。防犯カメラにしてもインターネットにしても最初はそうでしたよね。もちろん危ない面もあるんだけれど、危ない、危ないと言っていても、それでも使う中で徐々に社会のコンセンサスが出来上がっていく。その延長上に今日の私たちの暮らしがあるわけです」
近い将来、日本にも「どこでも顔認証の世界」はやってくるのだろうか。それは現時点では誰にもわからないと今岡さんは言う。安全と利便性の間のどこに落とし所を見いだすかは国によって状況が違うし、それこそ議論の結果によるからだ。それに、NECとしてはそのようにして日本にだけ過度にこだわるところはないという。
「もちろん日本も大切ですが、一方では200カ国のうちの1つというのがわれわれのスタンスです。1カ国に最適化してしまっては世界から相手にされなくなる。NECとしては広く世の中全体から信頼される技術をつくりたいと思っています」
陸上競技にも似た“コンマ1”の追求の果てに
NECの顔認証技術はここへきて意外な方向へも広がりを見せている。その1つが医療への応用だ。 国立がん研究センターとの共同で内視鏡検査時にリアルタイムでがんを発見するシステムを開発。
「この共同開発はお医者さん側からのお声掛けで始まりました。毎日がんと向き合っているお医者さんからすると、がんにも顔があるそうで。顔があるということは検出もできるよね、と」