NECで顔認証一筋20年取り組む男の仕事哲学 世界一を続けられる理由を今岡仁氏に聞く
「顔認証には深層学習という技術が使われているので、AIのど真ん中にいることは確かです。実はわれわれは5年前の時点ですでに深層学習に相当する技術を使っていたのですが、インタビューでは意図的に隠してお話ししていました。その後、こうした技術はかなり一般的なものになりました。その結果として顔認証を扱う競合も格段に増えています」
NISTのベンチマークテストの参加組織数が2017年の16組織から2018年に49組織まで急増しているのは、こうした変化の象徴と言えるだろう。今ではアメリカ、中国、日本などの名だたるベンダーが参加している。直近の参加5回ですべてナンバーワンに輝いているNECだが、その価値が段違いに上がっているということでもある。
業界全体の技術力が底上げされたことにより、顔認証技術が活用されるアプリケーションの幅も格段に広がった。
「5年前の時点では決済への活用は難しいと考えられていましたが、ご存じのように、中国では決済や鉄道の改札システムにも使われています。また、こうした事例が増えるのに伴い、プライバシーやセキュリティーに関する議論も活発になってきました」
こうした社会的な注目度の高まりに呼応するように、NEC内での今岡さんと顔認証チームの位置付けにも大きな変化があった。5年前にはすでに顔認証のチームを率いていた今岡さんは今年、史上最年少でNECフェローに就任。文字どおりの顔認証の「顔」としての役回りに加え、同社のデジタルビジネス全体を牽引する大きな役割が期待されている。
今なお世界一。2位との差は「むしろ開いている」
これだけ業界全体の技術力が底上げされ、競争が激化したとあれば、独走してきたNECのアドバンテージは相対的に小さくなったと想像するのが自然だろう。ところが「その差はむしろ開いている」と今岡さんは言う。
2018年のNISTで行われたベンチマークテストは、最大1200万人分の静止画像の中から特定の1人を探し出すことを繰り返し、その精度と速度を競うというものだ。NECのシステムの精度はエラー率0.5%で、2位企業の1.8%に大きく差をつけている。ほとんどの企業は登録画像が増えるほどに精度が落ちていくのに対し、NECはほとんど変わらない精度を保った。つまり、大規模システムへの適用可能性でも群を抜いていたことになる。