インドのドタキャンに翻弄される安倍外交 巨大経済圏構想「RCEP」が頓挫した深刻な内情

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日本政府は引き続き、インドを含めた16カ国でのRCEP交渉を続ける考えだ。梶山弘志・経産相は8日の記者会見で、インドが人口大国であることに加え、「自由で開かれたインド太平洋の実現のためにも、地政学的観点からも大変大きな意味がある」と述べている。対中牽制のためにインドを入れたいという考えは変わらない。

現状では、RCEP交渉をいつ再開するかは白紙の状態である。中国は、15カ国でもいいので交渉を前進させたいという姿勢だ。習近平国家主席は11月5日に「15カ国のメンバー国が交渉を終えたことをうれしく思う。近く署名し、RCEPが発効することを望む」とコメント。米中貿易戦争を抱えた中国にとっては、閉塞状況を打開するため早くRCEPを成立させてしまいたいのだろう。

12月には安倍首相のインド訪問が予定されており、ここで日本がインドにどんなボールを投げるかを参加国は注視している。一貫してインドを重視してきた安倍首相のスタンスからすれば、インドのRCEP交渉復帰に向けて経済協力などさまざまな手土産を持参するとみられる。

インドと組む覚悟はあるか

しかし、通商交渉に精通する経産省の有力OBは「モディ政権の5年間、産業政策や対内投資促進策には大きな進展がなく、今後の成長も極めて緩慢なものになる。インドから離脱を言ってくれたことを、15カ国でRCEPをまとめる好機とすべきだ」と漏らす。

対中牽制のため、安倍首相はインドをRCEPから外せない。インドはそれを理解したうえで、日本の足元を見ているのかもしれない。「そもそもハイレベルのFTAとインドの参加は両立しない。今の枠組みでRCEPを成立させるのはかなり難しい」という本音は、経産省の現役組からも聞かれる。

年内に日本とインドは初の外務・防衛閣僚会合(2プラス2)を実施することが決まっている。自衛隊とインド軍が物資や役務で融通し合う日印物品役務相互提供協定(ACSA)締結に向けての協議も進んでいるなど、外交・安保の面ではインドとの関係強化が進む。インドを日本の「準同盟国」とみなす向きもあるが、経済的に弱いままではパートナーとしていかにも心もとない。それを承知でインドと組むにはかなりの覚悟が必要だ。

民主主義という価値観を日本と共有しているインド。だが、貿易交渉にあたっては、それが国内世論をまとめきれない足かせとなっている。RCEP交渉での「ドタキャン」は、この異形の大国とどう付き合うのかという問いを日本に突きつけている。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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