インドのドタキャンに翻弄される安倍外交

巨大経済圏構想「RCEP」が頓挫した深刻な内情

こうした状況の打開に向け、最近のインドはRCEP交渉にがぜんやる気を見せてきた。モディ首相率いるインド人民党(BJP)が5月の総選挙で圧勝したことも追い風になった。

「インドの政治家は対中貿易赤字が6兆円もあると文句を言っているが、インドの産業に競争力がないからこそ、そうなっている。世界のサプライチェーンとつながり、製造業を育てたい。それに向け、RCEPは起爆剤となるという考えがインドの経済官僚に共有されてきた」(インドに詳しい国際金融筋)

首脳宣言前日で突然の心変わり

インドの姿勢の変化を受け、最大の難所だった電子商取引や知的財産でも、TPP並みとはいかずとも日本政府も納得できる水準で交渉はまとまった。20分野にわたる条文交渉はすでに完結し、あとは関税などを残すだけとなっていた。インドが懸念する中国からの輸入急増リスクには、緊急輸入制限(セーフガード)の導入が対策として提示された。こうした懸念を解消していけば、2020年2月までには妥結が可能だと思われた。

11月1日には閣僚会合が開かれたが、その場でも合意へのムードは変わらなかった。雲行きが怪しくなったのは3日に入ってからだ。首脳宣言の草案は、交渉参加国全体による合意を表すために”We”を主語にして書かれていた。それを「15カ国は」に修正せよとインドが要求してきたのだ。つまり、自国はまだ妥結するつもりはないという意思表示だった。

首脳宣言前日での心変わりに、各国代表団は茫然自失。あえなく時間切れとなった。

首脳会合の終了後には、インド外務省の局長がダメを押すように「インドはRCEPに参加しない」と交渉撤退を宣言した。ところが、これまでRCEPの交渉を担ってきたインド商工省の交渉官にほかの参加国が問い合わせると「そんな方針は聞いていない」と答えたという。

経産省の幹部は「インドはもはや国家の体を成していないのではないか」とあきれかえる。「インド政府に近いシンクタンクなどからも落胆の声が聞かれる。モディ政権には経済改革を期待できないという失望が広がった」(前出の国際金融筋)。

インドでは10月末になってから、豪州の農産物の流入を警戒する農民のデモや、中国製素材の輸入増を恐れる鉄鋼業界、化学業界などによるRCEP反対運動が盛り上がっていた。モディ首相の出身母体であるRSS(民族義勇団)などもRCEP反対を表明。

「モディ政権には、RCEP参加で経済をどのように活性化するかについて、しっかりしたビジョンがない。RCEP反対運動の高まりを受けて現段階では交渉離脱を唱えてみせ、国内世論を冷まそうとしたのではないか。本気で離脱するつもりはない」というのが、日本政府が内々で行った現状分析である。

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