アメリカ企業は株価を維持するために、内部留保を吐き出して自社株買いを実施するという財務戦略を取っている。株式需給は改善し、一株当たり利益の増加からROE(株主資本利益率)が押し上げられるので株価は上昇するが、これは財務の悪化を伴う。自社株買いはマクロ経済の観点からは、企業の余剰資金を家計に還流させることになるので望ましいが、レバレッジが高まるので、金利上昇時や景気後退で企業収益が悪化した場合の企業の耐久力は低下することになる。
かつては日本企業は株や不動産などを簿価で評価することが多く、高度成長の中で上昇した株価や地価との差は含み益として温存され、企業が必要なとき含み益を実現して収益に計上するということが行われていた。しかし、バブル崩壊後には価格が大きく下落した不動産や株式などを高値の簿価で資産に計上することが、不良債権の処理を先送りすることにつながった。そのため、欧米からは日本企業が資産を時価評価しないことが大きな問題だとされた。
時価会計制度の下では景気変動が増幅されてしまう
しかし一方で、時価会計が経済全体のバブルの原因ともなることには注意が必要だ。資産価格の上昇によって企業も家計も所得の増加を認識するので、景気は急速に拡大するが、逆に景気が悪化し始めて資産価格が下落しはじめると、所得の減少に拍車がかかり経済活動の下落幅を大きくする。時価会計制度には景気変動を増幅してしまうという欠点があるのだ。市場に勝つことは難しいが、市場がつねに正しいわけではなく、市場価格を妄信すべきではない。
さらに、現在のように超緩和的な金融政策や企業の株価維持行動によって株価の下落が食い止められていると、株価が下落すれば政策発動や企業の自社株買いによって下支えが行われるという期待が広がって、株式市場の参加者が株価の下落に対する警戒心を弱めてしまい、ますます株式市場でバブルが膨張する危険性も高まる。
グリーンスパン氏がFRB議長だった時期には、株価の下落要因が生じると、株価の下落を食い止めようとしてFRBが金融緩和を行った。これにはプット・オプションのような作用があり、株価下落の損失は限定されることから、グリーンスパン・プットという言葉が生まれた。株価下落に対する、市場のこうした楽観的な考え方が、リーマン・ショックの背景の一つであったと考えられる。
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