地方活性化の新規事業が大失敗する3つの要因 栃木・塩谷町は1億円売上計画で実績7万円!

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さらに、近年ではKPI(key performance indicator)といった、いわば成功のための市場や目標数値を設定することが多くなり、その監査なども厳しくなっています。失敗すれば、議会でも大問題だと騒ぎ立てられることになるので、行政の立場としては、担当者も上司も、市長も、誰もがなんとか取り繕うことを目指します。

この場合、当初の無理な計画を「現実的な計画へと変更する」のであれば、議会も認めるべきなのですが、「当初計画が間違っていた」と認めること自体が行政の失敗という、硬直した話になってしまったりするのです。

結果、予算事業に関わる官民双方とも、失敗が予期されても最後まで修正しないことが多くなりがちです。近年、さすがに国などは「計画変更があれば、早めに相談を」、といったりするようになりました。しかし、上記のような理由からもわかるとおり、失敗が予期されても相談せず、完全に失敗してから明らかになることのほうが、まだまだ多いのです。

駄目だとわかっている巨大施設を開発しつづけ、負債を支払い続けている自治体はいまだに全国にあまたあります。「追い銭」は高く付き、計画を修正する以上のコストを、その後に支払うことになります。

計画するとは「営業から始める」ということ

そもそも各種の計画は予算を取る前に、営業から始めるということが大切です。「予算があるから施設開発をする」、「予算があるから商品開発をする」という発想そのものが、前時代的なのです。

もし、新たな施設を開発するならば、予算を立てる前にテナント営業を行って、解約が出ることも念頭に置いて「100%+α」でテナントとの契約をまとめた状況で、施設の開発やリノベーションに取り組むのが当たり前です。

逆に言えば、そこまで達成できていれば、金融機関からの融資を受けることも、スムーズにできるはずです。それなりの利回りがあり、地域でのしっかりした目的や理念もあれば、今ならば、個人から出資や融資を集めるソーシャルレンディングなどで資金調達を行うことも十分可能でしょう。

また、商品開発の話でも、これもやはりまずは卸会社に営業して、その先の販売先をあらかじめ確保してから行うのが当たり前です。売り先もまったく不明なのに、商品だけつくって販売しようとしてどうするのでしょうか。「いいものを作れば売れるはず」などというのは、まったくの幻想にすぎません。

今であれば、クラウドファンディングで予約を先に集めてしまうことも可能であり、私の周りでも、いくらでもそのような取り組みが実践されています。逆に言えば、そもそも売れるかどうかわからないような商品開発に、最初から国や地方自治体などから予算をもらうこと自体が、狂っているのです。

「何を言っているんだ、新規事業にはそれなりの予算が必要じゃないか」という人がいます。しかし、予算をとる前に、新規事業には、その新規事業にふさわしい「新しい客」がいるのです。

私は高校時代から関わった地域事業で「『予算がないからできない』は、知恵がないことの証拠。予算がないからこそ、知恵が出る」と教わりました。予算獲得から物事を始めている方は、まずは営業してから予算のことを考えることを、お勧めします。

木下 斉 まちビジネス事業家

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きのした ひとし / Hitoshi Kinoshita

1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2008年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行ってきた。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主な著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK新書)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(日経BP)、『地方創生大全』(東洋経済新報社)がある。毎週火曜配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」もある。

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