日本人は防衛予算の正しい見方をわかってない 2020年度は「5.3兆円超」でなく6兆円前後に?

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問題は2次補正予算の3998億円だ。これのほとんどが「お買い物予算」だった。防災・減災、国土強靭化のための3カ年緊急対策に基づく措置として、自衛隊施設の整備(耐震化・老朽化対策)、自家発電機の整備(電力供給能力の向上)、施設器材(中型ドーザ、トラッククレーン)の老朽更新等となっている。

自衛隊の安定的な運用態勢の確保として、戦闘機(F-35A)、固定翼哨戒機(P-1)、輸送機(C-2)、哨戒ヘリコプター(SH-60K)等の整備で、車輛・艦艇・航空機等の整備維持等、原油価格の上昇に伴う油購入費・営舎用燃料費の増額、ソマリア・アデン湾における海賊対処行動の派遣期間延長に係る経費等となっている。

そして隊員の生活・勤務環境の改善として、隊舎・宿舎等の整備、営舎用備品(居室用ロッカー、洗濯機等)の整備等、障害者雇用の推進に必要な機器等の整備等となっている。

これらの中で本来の意味での補正予算に該当するのは「原油価格の上昇に伴う油購入費・営舎用燃料費の増額 310億円」と「ソマリア・アデン湾における海賊対処行動の派遣期間延長に係る経費に13億円等」、合計323億円。つまり3675億円は、本来なら次年度に要求する性格の予算といえる。

であれば、本年度においても概算要求額に事項要求や第2次補正予算の「お買い物予算」を足した金額が、実質的な防衛費である。

民主主義の根幹を揺るがす行為

政府は消費税引き上げの影響によるGDPの落ち込みを回避するために、本年度の補正予算を増やすだろう。恐らく「補正予算のお買い物予算」は4000億円を超えるのではないかと筆者は見ている。そうであれば来年度の「2020年度の本当の防衛予算」も6兆円前後になってもおかしくない。

このように防衛予算を3つに分割するのでは国民にわかりづらい。政府案に「事項要求」は含まれ、国会での議論は「来年度予算」と「当年の補正予算のお買い物予算」との2つに分かれて審議されるので一括して議論ができず、審議もまともにできるとは言えない。

これは文民統制上も大きな問題である。政治による予算の管理は文民統制の根幹である。それが軽視されていると言えるのだ。これは防衛省だけの問題ではない。ほかの省庁でも事項要求があり、事実上は補正予算が第二の予算と化している。

防衛省の発表をテレビや新聞などの記者クラブはそのまま垂れ流している。とどのつまり、政府の防衛予算を安く見せる世論誘導に乗っかってしまっている側面もある。これらは財政規律を歪めるだけではなく、民主主義の根幹を揺るがす行為といえる。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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