アップルが警鐘「スマホに抜かれる個人情報」 なぜ「検索した物」の広告が表示されるのか

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アップルは欧州で個人の情報を厳しく管理するGDPRを支持する表明を行っており、そうしたスタンダードが敷かれることは、むしろアップルの姿勢が競争的に優位になるとすら考えているはずだ。

アップルはプライバシー情報をiPhoneに極力閉じ込めながらも、機械学習を活用できるようにするため、機械学習処理に長けた独自開発のスマートフォン向けチップを開発し、iPhone Xから採用を続けている。

その一方で、例えばフェイスブックの情報流出には、少なからずiPhoneでフェイスブックを利用しているユーザーも含まれていた、アップルがいくら取り組んだとしても、プライバシーの基準が低いアプリをiPhoneで使うことができれば、アップルが言うようなプライバシー対策が意味を成さないことも明らかとなった。

ユーザーが使いたいという以上、そこに制限をかけることができないプラットフォームとしての立場であるからこそ、今回アップルはプライバシー対策を訴え啓蒙していこうとしている。ユーザーであるわれわれも、自分ごととして、手元にあるスマホで何が起きているのかを知る必要があることは、言うまでもない。

アップルはプライバシーというトピックが他社に広がることを歓迎する姿勢だ。テクノロジーを扱う人類の権利や安全保障が向かうべき道だという主張には、テクノロジー企業もユーザーも反論することは難しい。

しかしプライバシー競争となった場合、アップルが優位に立ち続ける準備が整っていることもまた事実で、他社にとってはビジネスモデルの転換や新たな仕組みの開発など、コストを伴う変化を迫るものだ。アップルが自分の土俵に引き込みたいという意図があることも透けて見える。

プライバシーに無頓着でいられるのも今のうち?

動乱が続く香港では、中国政府に批判的な市民の行動計画や現在の位置情報は、鎮圧に動く当局の行動を決める重要な情報となってしまう。アップルは、警察当局の位置情報を知らせ市民の安全を守るアプリを、1度は許可するものの、中国当局に配慮する形でApp Storeから削除した。

アップルとしてはApp Storeのガイドラインに抵触したことを理由に挙げているが、アメリカの議員からは中国でのビジネスと香港市民の安全を天秤にかけたとの批判も上がった。個人のプライバシーと国家の安全保障のバランスの間で、アップルも苦慮する場面が見られている。

われわれは日本という、治安がよく、権利が守られている国で過ごしているため、プライバシーが自分の生存を脅かしかねない問題である、という意識は薄いかもしれない。しかしそれは未来永劫の権利でないことを意識すべきであり、コントロールするだけの知識を蓄えておく必要がある。

とくに、SNSや決済サービスなど、中国のネット・モバイルのアプリの台頭が目立つようになり、日本でもTik Tokは若年層に人気だ。すでに「日本だから安全」とは思わず、いかにして自分や家族を守るかを考える段階に来ている。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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