国産「三菱ジェット」6度目の納入遅れに現実味 米社が契約解除、20年予定のANA納入も困難に

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本来、TSHとの契約はM100と同じようにスコープクローズに準拠した「MRJ70」(座席数70席クラス)への転換権付きの契約だった。だが、MRJ70のコンセプトを発展的に引き継いだM100の契約に転換せずに、いったん契約を解除したうえでもう一度協議をすることになった背景には、一連の開発遅れがあるのは明らかだ。

M100の市場投入は2023年を目指すとしているが、その前提となるM90の投入ができない状態では、この予定もどうなるか見通せない。今回の契約解除とM90の開発遅れとの関係について、三菱重工の泉澤社長も「影響がなかったかといわれればある」と認めた。

三菱重工の業績は好調だが…

TSHの契約解除により、M90の契約機数は387機から287機に減少した。三菱重工は今年6月、カナダのボンバルディア社から小型旅客機事業を買収する契約を結び、機体整備などのサポート体制を整えることが可能になった。だが、肝心の機体が思うように完成・納入にこぎ着けられないのでは、サポート体制充実も空振りに終わる。

スペースジェットの開発は停滞しているとはいえ、三菱重工の業績は好調だ。火力発電に使う高効率のガスタービンが好調だったこともあり、31日に発表した2019年4~9月期決算(国際会計基準)は、売上高が前期比0.3%増の1兆8776億円、本業のもうけにあたる事業利益は24.4%増の743億円だった。

「生み出したキャッシュをどう使うかが課題」と語る三菱重工の泉澤社長(撮影:尾形文繁)

2020年3月期通期でも売上高は5.4%増の4兆3000億円、事業利益を9.7%増の2200億円と見込む。課題だった財務基盤も順調に強化されており、2016年3月期に1兆0521億円だった有利子負債は今年9月末には6773億円に減少した。

8月の東洋経済のインタビューで泉澤社長は「生み出したキャッシュをどうやって使うかが今後の課題だ」と語っていた。

三菱重工はこれまで、スペースジェットの開発に約6000億円をかけ、2018年には子会社である三菱航空機に対する増資1700億円を引き受けるなどした。とはいえ、開発のピークを過ぎているために開発費は減少傾向にあり、納入延期になっても大きな損失を計上するとは考えづらい。

ただ、スペースジェット事業は将来の成長戦略でも重要な位置を担う。

三菱重工は31日、従来5兆円としていた2021年3月期の売上高目標を4兆7000億円に、事業利益も同じく3400億円から3000億円に引き下げた。小口正範CFOは「必ずしもM&Aを強行せず、取りやめたものもある。さらに、昨今の経済環境をみると、楽観的な状況でもない」と説明した。

スペースジェットが三菱重工の業績に本格的に貢献するのはもっと先だが、足元の成長見通しに陰りがみえる中で、開発延期を悠長に待っている余裕はなくなってきている。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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