トランプ弾劾が日本に与える結構デカいリスク より衝動的な外交政策を打ち出す可能性

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とはいえ、トランプが平壌を訪問し、メディア向けにドラマチックな演出する可能性はゼロではない。トランプ政権の東アジア政策に携わる当局者は依然として、トランプ大統領は金委員長と会談すれば、非核化協定の交渉は可能だと考えている、とウォルコット氏は報告している。

「北朝鮮の核の脅威を終わらせたと主張したものの、依然として北朝鮮のミサイル実験による挑発がエスカレートしているのに直面し、トランプ大統領はジレンマを抱えている」と、国務省前高官であるラッセル氏は見る。ただ「『炎と怒り』への回帰は、トランプ大統領の外交アプローチの失敗を意味することになるだろう」。

米軍駐留経費問題が再浮上

一方、中国については、トランプ大統領は自らの政策を犠牲にしても、中国の習近平国家主席との取引を受け入れる用意があるようだ。中国に重大な構造改革の実施や知的財産の保護、商業政策の撤廃による技術競争の促進、中国市場のグローバル企業への開放を迫ってきた数カ月にわたる交渉は脇に置かれた。

その代わりに、トランプ大統領はいわゆる「第1段階」の合意を締結することに躍起になっている。これは、基本的にはアイオワ州のような農業が盛んな州での票を獲得するため、中国によるアメリカの農産物購入をことさら強調するのにも等しい内容となっている。

「多くのアメリカ政府高官は、国内での政治問題が深刻化する中、トランプ大統領は自らの勝利として自慢できるような海外での取引を結ぶことに、より躍起になるだろうと見ている」とウォルコット氏は話す。

「例えば、先の選挙で支持を広げた農業が盛んな州で不安が広がりつつあるのを受けて、トランプ大統領は中国との取引で不安を解消しようとした。実際には協定にもなっていないのは明らかだが」

弾劾問題の影響を受けそうなもう1つの外交政策は、防衛費の負担をめぐる日本と韓国との協議である。韓国との協議はまもなく始まるが、来年初頭からは「在日米軍駐留経費負担」協定の交渉が始まる。アメリカ政府高官によると、トランプ大統領は韓国と日本が以前の合意の5倍、つまり韓国が50億ドル、日本が75億ドルを負担することを要求しているという。

これらの要求をどれだけ本気しているのかはまだ明らかではない。「おそらくまずはこれくらい、と仕掛けているのだと思う」と元アメリカ国務省の高官は話す。だが、アメリカの同盟国により多くの防衛コストを負担させる要求は、トランプ大統領「アメリカファースト」の立場を支持する人々を中心に人気が高い政策であり、アメリカが引かない可能性もある。

トランプ大統領という嵐は当面止まりそうにない。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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