資生堂、アメリカで「900億円M&A」の勝算 スキンケア社買収でクリーン製品市場に進出

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ベアエッセンシャルは「自然派コスメ」が売りだったが、競合激化で売り上げが低迷。さらに、強みであったテレビショッピングの投資縮小も痛手となった。現在、不採算店舗の閉鎖などで立て直しを図っているが、資生堂のアメリカ事業は2017年12月期117億円、2018年12月期147億円と営業赤字に陥っている(2015年12月期以前は非公開)。

ドランク社の製品群。若年層から人気がある(写真:資生堂)

資生堂の海外事業の中で、アメリカは中国に次いで規模が大きい。また、アメリカの化粧品市場は2018年から2022年まで年平均成長率4%が見込まれる(資生堂調べ)。資生堂が得意とするスキンケア市場はまだ規模が小さいものの、裏を返すと、まだ伸びしろがあるといえる。

今回、需要が膨らんでいるクリーン製品を扱うドランク買収によって「資生堂はドランクをアメリカ市場再建の起爆剤にするもくろみだろう」(業界関係者)とみられている。

ドランク買収でD2Cを強化

資生堂がドランクを買収した理由は、もう1つある。ドランクが強みとしているD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)だ。

D2Cはここ数年、小売業界で急成長している取引形態で、定義はまだ明確化されていないが、EC(ネット通販)などを活用して消費者に直接商品を販売することが特徴とされている。先行するアメリカではスーツケースや寝具、ウール素材の靴など、ニッチなニーズを捉えた小規模なブランドが数多く躍進している。

この新しい動きを取り込むべく、2016年には月額制でひげ剃りを販売するダラー・シェイブ・クラブをユニリーバが10億ドルで買収。2017年には、ウォルマートが男性衣料D2Cブランドのボノボスを3.1億ドルで傘下に収めた。

ドランクは売り上げに占めるEC比率が5割強で、アメリカの化粧品専門店セフォラでリアル店舗も展開する。「ドランクはインスタグラムでアニメーションを用いた投稿を積極的に行い、消費者からのダイレクトメッセージにもすぐ返信する。SNS上で高いコミュニケーション能力を持つ」(資生堂の広報担当者)。資生堂は今回の買収で、D2Cブランドとしての側面もあるドランクのノウハウを取り込む目的だ。

資生堂は2020年12月期までに、連結売上高に占めるEC比率を2017年12月期の8%から15%にまで引き上げる中期目標を掲げている。EC上のデータと店頭の購買情報を紐づけ、マーケティング力などの強化を図る。前出とは別の業界関係者は「今回の買い物は間尺に合っている。EC比率15%目標は、今回のM&Aの効果で達成できるだろう」と評価する。

ドランク買収は、アメリカ事業立て直しとEC展開の加速という明確な狙いがある点で評価できる。ただ、ベアエッセンシャルでの手痛い失敗があるだけに、先行きは楽観視できないだろう。

若泉 もえな 東洋経済 記者

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わかいずみ もえな / Moena Wakaizumi

東京都出身。2017年に東洋経済新報社に入社。化粧品や日用品、小売り担当などを経て、現在は東洋経済オンライン編集部。大学在学中に台湾に留学、中華エンタメを見るのが趣味。kpopも好き。

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