安易にリツイートする人が抱える「責任の重さ」 知らずと名誉毀損リスクにさらされることも

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1. 信用毀損罪

虚偽の情報を流したり、人を騙したりすることにより、他人の信用を毀損した場合に成立する犯罪。3年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑法233条前段)に処せられる。

「あの会社は倒産間近だ」「あの店は業績不振で、近々閉店するそうだ」といった、信用を失墜させる書き込みは注意。法律でいう「信用」とは、経済的な面における社会的評価に限られる。つまり支払い能力とかだ。しかし近年は、「あの店で食べた肉は和牛のA5とうたっているが、実は安物の海外牛だ」など、商品の質やサービスについて社会的信頼を失わせるような書き込みも、信用毀損になる可能性が指摘されている。

また対象は、人だけなく、企業などの法人や法人格のない任意団体も対象になる。そして親告罪(被害を受けた人が訴え出ること)ではないので、刑事告訴がなくても警察が捜査をして、逮捕される可能性がある。経済的な問題に関して信用に関わる批評や投稿には反応しないほうが安全といえよう。

2. 名誉毀損罪・侮辱罪

不特定または多数の者に対して、ある特定の者の信用や名声といった社会的地位を違法に落とす行為をいう。民事上の損害賠償責任を負う(民法709条等)ほか、刑事上の名誉毀損罪(刑法230条1項)の責任も追及される。「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金」。

「あの会社の社長には、愛人が3人いる」「彼は逮捕された前歴がある」「あのタレントは、通名を名乗っている」というような場合である。たとえそれが事実であっても、名誉毀損になる。逆に事実の摘示を伴わないような場合は侮辱罪となる。例えば「あの会社の社長の頭は猿なみだ」「あいつはゲス野郎」「死ね」などだ。

親告罪だから、被害者が訴えなければ、刑事責任は問われない。一般的に多いのが損害賠償を求められる民事責任である。他人のプライバシーや名誉、差別的な発言をした投稿や書き込みは、無視してスルー。リツイートや転載、シェア、いいね!はしない。もちろん事実の裏付けを取ることなしに、自らこうした記事を書いたり投稿したりすることもご法度といえよう。

これも注意が必要なのは、法律の「人」には人間だけではなく企業や団体も含まれること。「会社幹部はみんな在日出身者。日本から出ていけ」などの文言も、名誉毀損になる可能性がある。

付和雷同は危険、自分の頭でよく考えて

ソーシャルメディアが普及し、誰もが簡単にクリックひとつで拡散できてしまう時代である。中でもSNSは、情報共有が大きな特徴であり、「共感」の心が思わぬ事態を引き起こすということを肝に銘じて、ネットと付き合ってほしい。

人の役に立つ情報と思った、倫理的に許せないと思ったからといって、それが事実無根だったり、人違いの話だったりすることだってある。そこを安易に信じて拡散してしまうと、ネットで誹謗中傷に加担する行為とみなされ、名誉毀損をしていることにもなりかねない。

田淵 義朗 ソーシャルメディアリスク研究所代表、マイナンバー総合研究所代表

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たぶち よしろう / Yoshiro Tabuchi

神戸市出身、中央大学法学部卒業。情報セキュリティコンサルタント。宝島社(JICC)に勤務後、独立。主に個人情報とプライバシー、マイナンバー、情報漏えい問題を中心に執筆、講演等幅広く手がけている。マイナンバー総合研究所代表としては、現在、士業(会計士、税理士、社労士)対象に、無料ガイダンスを毎週土曜日実施中。http://www.mylab.com

ソーシャルメディアリスク研究所では、「不幸な人と企業を出さない」ことをミッションに、ソーシャルメディアトレーニング、コンプライアンス研修を行う。ロックバンドUNISON SQUARE GARDENの田淵智也は息子。 https://www.facebook.com/ytabuchi

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