最低賃金引き上げ「よくある誤解」をぶった斬る アトキンソン氏「徹底的にエビデンスを見よ」
確かに、アメリカは生産性が高いにもかかわらず格差が大きく、貧困率が16.8%と大手先進国の中で高いのは事実です。ただし、その理由は、アメリカの最低賃金が所得の中央値に対して著しく低いからです。
つまり、生産性の高いアメリカで貧困率も高いのは、アメリカが特殊な国だからです。このように1つの特殊な例を取り出し、それが特殊な例かどうかも確認せずに一般化して議論をするのは、エビデンスの曲解につながるので注意が必要です。
また、イギリスは生産性が高くはありませんし、貧困率も日本の16.1%より低い10.9%です。ご指摘には当たらないと言わざるをえません。
生産性が高いほど貧困率が高くなるというエビデンスはありません。貧困率を下げたいなら、逆に、最低賃金を引き上げるべきなのです。
「一部の事情」を一般化するのは危険
こういう指摘がされるのは、そういう影響が考えられる業種があるからではないかと察します。建設業や製造業でしょうか。
確かに調べてみると、大企業は中小企業が多数存在するのをいいことに、価格競争をさせて買いたたき、中小企業が創出した付加価値を自分のものとして計上している形跡が確認できます。それを示すエビデンスは存在します。
しかし、360万社ある日本企業の中で、すべての中小企業が大企業の下請けとなっている事実はありません。飲食業、宿泊業、美容室なども生産性が低い業種ですが、これらの業種は大手企業に搾取されているわけではありません。
大手企業に搾取され生産性が低くなってしまっている事例があるといっても、そういう企業が全体のどれほどの割合を占めているのか、キチンと把握しておかなくては議論になりません。
私は、約2割でないかと試算しておりますが、十分な統計が存在しないので正確な推計はできません。いずれにせよ、100%ではないことは明らかです。
最低賃金を引き上げると、大半の中小企業は余裕がないので、廃業するかリストラして社員数を減らすしかなくなるというご指摘です。
この主張を立証するためには、膨大な量のデータ分析が必要になります。地方といっても経済状況はさまざまですし、中小企業も数が多い分だけ、実態は多様です。
「地方の大半の中小企業は最低賃金に耐えうるだけの余裕がない」というなら、そのエビデンスを出していただきたいです。私が実際のデータを分析するかぎり、この主張には疑問を覚えます。
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