最低賃金引き上げ「よくある誤解」をぶった斬る アトキンソン氏「徹底的にエビデンスを見よ」
これが本当なら一大事ですので、一生懸命、学会に発表された論文を探しましたが、このような結論を展開している論文を見つけることはできませんでした。いったい、どの論文をご覧になられたのか、教えていただきたいものです。少なくとも、確認できる論文の中で特殊な例であることは間違いありません。
イギリスはLow Pay Commission(低賃金委員会)が徹底的な分析に基づいて、政府に対して提言する仕組みを設けています。この低賃金委員会が2019年4月2日に発表した286ページにも及ぶ報告書には、以下のように記載されています。
直近のデータでは、イギリスの労働参加率は76.1%という記録を更新して、失業率も3.9%と、1974年以降の最低水準にあります。
最低賃金を引き上げても失業率が上がらないことは、このデータで証明されています。ですから失業率が上がると主張するならば、このイギリスの事実を否定することになりますが、厳然たる事実を否定することなど可能なのでしょうか。
むしろ「イギリスの特殊性」から学ぶべき
この指摘には一理あります。というのも、科学的な根拠に基づいて最低賃金の引き上げを実施していることが、イギリスの特徴の1つと言われているからです。
イギリス政府は低賃金委員会に対して、雇用への影響のない、ぎりぎりの線で最低賃金の引き上げを提言する使命を与えています。雇用への影響が出ないのは、偶然ではないのです。それに比べて、日本の最低賃金を決める中央最低賃金審議会の委員の専門性は相対的に低いと、日本総研が報告しています。
ここでの教訓は、「ぎりぎりの線」を狙えば、雇用に影響を与えることなく賃金を高められるということです。イギリスでできたことが日本でできないとは思えません。
イギリスでは、若い人に影響が出ないように、若い人のための最低賃金を別に設定しています。場合によっては日本でも検討に値するでしょう。
イギリスの現行の最低賃金は、25歳以上では8.21ポンドですが、21歳から24歳は7.7ポンド、18歳から20歳は6.15ポンド、18歳未満は4.35ポンドです。若い人が求職に困らないように工夫していると言えます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら