最低賃金引き上げ「よくある誤解」をぶった斬る アトキンソン氏「徹底的にエビデンスを見よ」

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視点4:「中小企業は苦しいから、最低賃金の引き上げに耐えられない」「対応のしようがない」「倒産するしかない」という極論を展開するのであれば、中小企業の実態を正しく分析したうえで、労働者が搾取されているという事実が存在しないことを証明する必要があります。少なくとも私はそんな分析を見たことはありませんし、私自身の分析でもそんな実態は存在しません。

「中小企業の経営は大変。最低賃金なんか上げたら、倒産しちゃいますよ」。日本に限らず海外でも、実際に給料を払うことになる経営者たちは口をそろえてこう主張しますし、御用学者たちも同様の発言をします。

しかし、海外の例でも、毎年10%以下の最低賃金引き上げによって倒産が増加したという分析結果が出たことはありません。もちろん統計的にそんなことが確認されたこともありません。

視点5:社会保障の負担が増える一方、担い手が激減する日本では、根拠なき感情論ではなく、徹底した分析に基づく科学的根拠をそろえたうえでの議論を展開することを強くお勧めしたいと思います。

最低賃金を段階的に引き上げていくと、もちろん中小企業は大変です。しかし、生産性が上がらないと、社会保障負担に国が耐えられないという現実の危機を乗り越えるための代案を示していただかないといけません。

2年間で30%も引き上げた韓国と同一視はできない

疑問10:韓国は最低賃金を上げて経済が崩壊しています。日本も、韓国のようになってしまうのではないですか?

韓国は、最低賃金を2年間で30%も引き上げてきました。アメリカのある分析によると、最低賃金を1年間で12%以上引き上げると、短期的に失業率が上がるおそれがあるとしています。日本ではもっと緩やかな引き上げが議論されていますので、比較すること自体に意味がないと感じます。

最低賃金の引き上げの効果を測るには、収入増加と失業率のバランスを天秤にかけるべきです。残業の調整なども含めて、最低賃金が上がることによるネットの所得増加によるプラスと、失業率が高まることによるマイナスを両方見るべきです。失業率だけに注目する議論は視野が狭いと言わざるをえません。

韓国の失業率は、過去20年間の平均で3.7%でした。確かに2019年の1月には4.4%まで大きく上がりましたが、そのあとは落ち着き、直近の8月は2002年に更新された最低記録の3%に近い3.1%まで下がっています。倒産件数も落ち着いています。

若い人の失業率が高く、長期的な影響はまだ見えず、失業率が低下しているデータポイントが少ないため、韓国の最低賃金の直近の引き上げがどのくらいの失業につながったかは、専門家として判断するには時期尚早です。トレンドを冷静に見守る必要があります。

韓国は2年間で最低賃金を30%も引き上げているにもかかわらず、まだ言われるほどの崩壊は現実になっていません。一方、日本では5%引き上げたら大変なことになるとあおられている。韓国に比べて、日本経済が極めて貧弱であるという指摘には、とうてい賛同できません。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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