なぜ西武と阪神は「プロ野球」にこだわるのか かつて参入した鉄道会社は経営から次々撤退

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また、ライオンズ自身も活性化に取り組み、観客動員とファンクラブ会員数を着実に増やし、さらに地域貢献活動にも取り組むようになった。

西武グループの2021年度までの中期経営計画でも「旅客運輸収入(定期外)」増加のための具体的施策として、メッツァビレッジやメットライフドームなど沿線レジャー施設や商業施設との連携を挙げるなど、西武ライオンズと鉄道の相乗効果への意識が明確に示されている。2021年3月にはメットライフドームの改修が完成し、観客動員と西武鉄道利用者双方のさらなる増加が期待される。

今後わが国では人口減少に伴う労働人口および顧客の減少が見込まれる。鉄道も中長期的には、乗車人員が減少に向かうことは確実だ。日本国内において鉄道路線を中心とする事業基盤を有する大手私鉄の中には、成長を求めて海外展開を志向する動きも見られるようになった。

西武HDの後藤高志社長は本誌のインタビューに「アメリカなどではとくにそうですが、西武グループのCEOだと言ってもピンとこない人もいますが、『12球団しかないプロ野球球団のオーナーだ』と言えば、ウェルカムになるケースがあります。海外に事業展開するうえでも、球団保有の意義は大きい」と語っている(2018年12月22日付記事「西武後藤社長が明かす『埼玉をどうしたいか』本社東京移転後の川越、所沢、球団の将来は?」を参照)。

阪神タイガースの将来は?

もう1つの鉄道系球団である阪神タイガースはどうか。年間観客動員が巨人を上回る年もあり不動の人気を手にし、球団の採算は良好と推察される。

しかし、親会社の阪神電鉄が投資ファンドによる株式買い占めを契機に、2006年に阪急電鉄との経営統合を選択。タイガースも、阪急阪神ホールディングス(HD)傘下に入った。同HDはタイガースを「エンターテインメント事業」として収益確保を行う現状維持を選ぶのか、あるいはグループのイメージリーダーと位置づけ、グループの事業拡大への活用を選択するのか、明確とは言えない現状がある。

同HDは「長期ビジョン2025」の中で阪神タイガースを含むスポーツ型事業を「フロー事業」と定義し、「ブランド価値の最大化と差別化戦略の徹底追求による競争力強化」を志向していくという。企業価値向上のために、タイガースをどのように磨き上げていくのか、具体的な方針を示すことが望まれる。

選ばれる沿線となるためにも、さらなる成長を求めて海外へ事業展開するうえでも、そして地域との共生を進めていくためにも、西武と阪神がプロ野球球団の継続を選択した意義はますます高まるだろう。

大塚 良治 江戸川大学准教授

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おおつか りょうじ / Ryouji Ohtsuka

1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。明治大学兼任講師、および東京成徳大学非常勤講師を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。

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