定額給付金の経済効果GDP0.2%? 論戦から見えた日本の経済統計の問題点

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 細かい部分が分析できていないので、例えば、「クルマの需要を100万台増やせばクルマ自体の消費はどれだけ伸び、産業の設備投資はいくらくらい増え、雇用はいくらくらい増えるか」が分析できないのだ。

筆者は、クリーンカーへの買い替えには1台50万円くらいの補助金を出すべきと主張しており、その根拠を作るために経済予測部門の担当者と議論した。しかし、全くデータを出してもらえなかった(筆者はないので出せなかったと見ている)。

例えば、2兆円を配布して8000億円の経済効果があると政府は主張するが、50万円の補助をクリーンカー100万台にするとしても5000億円、2兆円あれば4年間も買い替え・新規購入の補助金制度を維持できる(現実には、こんな単純な話ではないので、それを検証するために詳細な経済予測が必要となる)。

単純計算でクルマ1台当たり0.4人の雇用創出効果があるので、100万台生産が増えれば40万人の雇用が生まれる。現在、自動車生産はは前年比で2~3割も落ちている。これを支えずして政府は何をしているのだろうか。

同じようなことが住宅にも言える。すでに2割程度の新規建設が落ちている。補助金などにより住宅の新規着工やリフォームを進めることで景気の下支えが期待できるが、いくら程度の補助でどの程度の経済効果があるかが現状では計算できないのだ。

ちなみに、国際金融政策担当者に尋ねたところ、IMFの調査統計部門は大体30人くらいはいるとのこと(兼務が多いので明確な数字はないそう)。これに各国・各地域の経済データを集める部隊が個々にあるので、全体で関与する人数は相当なものになると言う。また、日本銀行は、経済予測などを行う調査部局に、なんと160人ものスタッフを抱えている。

経済統計は国の基盤

経済予測は景気対策を議論する基盤だ。その基盤がきちんとしていないため、定額給付金のような経済効果もよくわからない政策が実現されてしまう。

麻生首相は、現在の景気後退を100年に1度の経済危機と言う。非常に厳しい経済情勢にあるという認識は筆者も変わらないが、しかしながら、経済統計や予測が正確でなければ適正な政策は打つことはできない。

戦後、マッカーサーが吉田茂に「日本の統計は全くでたらめだ」と言ったところ、吉田茂は、
「もし統計が正確だったら、アメリカと戦争はしなかったでしょう。」
「また、統計どおりだったら日本はアメリカに勝っていましたよ。」
と返したそうだ。未来の総理大臣が同じような発言をしないようにしなければならない。

(吉田茂の写真の出所:官邸)

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