日本の国富が減少したわけ GDPを生み出さない資産は国富に計上されない

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持ち家については、所有者が自宅に家賃を支払っていると見なす「帰属家賃」という考え方をして、家賃相当額がGDPに計上されている。自家用車やテレビなどの耐久消費財も、本来は毎年そこからサービスが生産され、それを消費しているという計算をすべきだが、推計困難なのでGDPからも国富からも除外されているのだろう。

ビルや住宅などの建物をどんどん建設し、工場に生産設備を設置していけば、物理的には有形固定資産は増える。しかし、それだけで富が増えて日本が豊かになるというものでもない。入居者のいないビルや生産が行われていない工場は、確かに実物はあるが、何も生み出さなければ経済的な価値は無いからだ。1980年代後半のバブル景気で大量に建設された工場やリゾートホテルなどが、過剰設備となって日本経済の重荷になってきたことは明らかだ。

資産に価値があるのは、そこから生まれるモノやサービスに価値があるからで、資産そのものに固有の価値があるわけではない。ビルを建設したり機械を制作したりする費用で資産の価値が決まるわけでもない。高層ビルを建設するのは費用がかかるが、都心の高層ビルは高い賃料を得ることができるので価値があるが、山奥に高層ビルを建てても誰も利用しないので、価値はゼロだ。

さて、有形・無形の固定資産は、富であると同時に生産に使われる手段だ。1円のGDPを生み出すために、どれだけの固定資産が使われているかは資本係数と呼ばれる。

日本の投資効率は米国よりも低い

米国では第二次世界大戦後ほぼ一定だったが、最近では2007~08年の住宅バブルの時期に3を超える水準に上昇した。この時期には過剰な住宅投資が行われており、米国の資本係数は今後もう少し低下する可能性が高いだろう。

日本の資本係数は長期的に上昇傾向にあり、2012年には3.17となっている。日本の資本係数が米国よりも高いということは、同じ1兆円の投資で日本よりも米国の方が高い利益を得られるということであり、日本は投資の効率改善が必要だろう。

 

 

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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