それでもまだ金価格が上昇するこれだけの理由 米中貿易戦争だけではここまで人気化しない

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このように、足元、投資家の金投資へのニーズが高まっているのですが、米中両大国の覇権をめぐる構造的な対立やETF(上場投資信託)拡大などにより、長期的に見ても、金価格が押し上げられる可能性が高いと見ています。

米中貿易摩擦は、両大国の覇権争いが絡み、収束の兆しが見えません。9月1日、トランプ政権は約1100億ドル(約12兆円)相当の中国製品への追加関税を発動する一方、中国もただちに報復関税を発動し、さらに9月2日にはWTOにも提訴しました。10月上旬に米中で閣僚級の貿易協議が再開される見通しですが、関税引き上げ合戦、通貨切り下げ競争で最終的に世界大戦に突入した1930年代を彷彿させるような展開ともなってきており、当時も金は良好な価格推移となっていたことから、投資家の金に対する選好が続く可能性も高いでしょう。

また、中国やロシアなどの中央銀行では、外貨準備で、アメリカ国債の保有増加を抑えながら金投資を拡大するなど、リスク分散の動きが広がっていることに加えて、宝飾品としての需要が多い、中国やインドの長期の成長期待も相まって、金価格を需給面からサポートしていくと考えています。

年金など機関投資家によるオルタナティブ(代替)投資の一環として金需要が高まっていることも見逃せません。2003年にオーストラリアで金のETFが初めて上場した後、ロンドン、ニューヨーク、日本などでも相次いで金のETFが上場し、ETFを通じた金投資のマーケットが大きく拡大しました。分散投資、オルタナティブ投資として、リスクを抑え、リターンを高める金をETFとしてポートフォリオに取り込む機関投資家が構造的に増えてきていることは、長期の金価格の下支えとなってくるでしょう。

また、NY金先物価格は長期のテクニカル面からも良好なトレンドとなっています。月足の各種移動平均線(1年:12カ月、2年:24カ月、5年:60カ月)を見ると、1年、2年の移動平均線が5年移動平均線を下から上回るゴールデンクロスを形成し、トレンドが良好であることが窺えます。

ステーブルコインの台頭も上昇要因の一つ

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 以上のように、長期のファンダメンタルズ、テクニカル面とも金に対してフォローの風が吹いているのですが、さらに今後の金の流れを大きく変える可能性があると見られているのが「ステーブルコイン」(安定通貨)としての仮想通貨(暗号資産)の台頭でしょう。

例えば、2019年6月、米SNS大手のFacebook(フェイスブック)が、独自の仮想通貨(暗号資産)である「Libra(リブラ)」をリリースすると発表しました。2020年からステーブルコイン(米ドルなど法定通貨と連動する仮想通貨)として提供するとしています。発行体は発行するステーブルコインと同じ量の法定通貨を準備金として保管し、決められたレートで法定通貨と交換可能にすることで仮想通貨(暗号資産)の価格・価値の安定性・信頼度が高まることが予想されます。

こうしたステーブルコインが世界中に広がっていくことで、信用力のある仮想通貨(暗号資産)の地位を確立すべく、法定通貨ではなく、実物資産として金との交換を可能とする、ステーブルコインが登場することも考えられます。

そうした場合、各国の中央銀行が発行した紙幣と同額の金を保有し、いつでも相互に交換することを保証する「金本位制度」が形を変えて復活することになり、ステーブルコインを投資対象としたETFの登場や中央銀行による外貨準備対象資産となることも現実味を帯び、金の価値は一段と高まってくることでしょう。長期の金価格を占う上で足元のステーブルコインの広がりの可能性にも注視しておきたいところです。

中村 貴司 東海東京調査センター 主任調査役 シニアストラテジスト

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なかむら たかし / Takashi Nakamura

日系、外資系証券、損保・証券系運用会社でアナリスト、ファンドマネージャー等を経て現職。ファンダメンタルズ分析にテクニカル分析や行動ファイナンス理論を組み合わせた投資戦略、市場分析を重視。国際公認投資アナリスト(CIIA)、CFP、国際検定テクニカルアナリスト(MFTA)。日経CNBC等での出演のほか。日経新聞、QUICKなどでもコメント・執筆。早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター「ファンドマネジメント講座」などで講師を務める。

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