「2050年日本の破局」を防ぐ持続可能シナリオ AIが示す人口減少時代の「地域分散型」の未来

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一方、国際比較調査を見ると、現在の日本社会は先進諸国の中でもっとも社会的孤立度が高い国になっており、家族や集団を超えたつながりが希薄な社会になっています。

さらに、地方都市ではいわゆるシャッター通りが増え、街の空洞化が進み、高齢化が進む中で買い物にも困難をきたす層が600万人ないし700万人存在するといった調査結果も出されています。

先ほど「2050年、日本は持続可能か?」と記しましたが、いま述べたような状況を踏まえれば、現在のような政策を続けていけば、未来の日本社会は「持続可能シナリオ」というよりもむしろ「破局シナリオ」に向かってしまうのではないか。

こうした問題意識から出発し、それでは日本の未来が持続可能なものとなっていくには何が必要かを、AIを活用して探っていこうというのが私たちの研究の基本的な関心でした。

具体的には、京都大学に2016年6月に設立された「日立京大ラボ」との共同作業として研究を進め、2017年9月に第1次の研究成果をまとめました。

その内容は、財政赤字、少子化、環境破壊など約150の社会的要因からなる因果連関モデルを作り、2050年の日本社会が取りうる約2万通りのシナリオを分析し、日本が持続可能となるためにはどのような対応が必要かを明らかにするというものでした。

出てきた結果は、未来の日本の持続可能性にとって「都市集中型」か「地方分散型」かという分岐が最も本質的であり、その分岐は今から6~8年後に生じる蓋然性が高く、かつ人口や地域、格差や健康、幸福といった観点からは「地方分散型」のほうが望ましいという内容でした。

また、地方分散型シナリオへの分岐を実現するには、環境課税、再生可能エネルギーの活性化、地域公共交通機関の充実などの政策が有効であることも明らかになりました。さらに、地方分散型シナリオにいったん進んだ後も、それが十分に持続可能か否かの分岐が約15~18年後に生じる可能性が大きく、持続可能な方向に導くためにはさまざまな政策の継続的な実行が必要であることが示されました。

こうした試みは他にあまり例がないものであったため、公表以降、政府関係機関や地方自治体、企業等から多くの問い合わせをいただき、例えば長野県庁や岡山県真庭市とは同様の研究を連携して進めています。こうした「AIを活用した社会構想と政策立案」に関する試みは、まだ試行錯誤の未開拓のものですが、今後も発展していくと思われます。

「地方分散型」社会:若い世代のローカル志向

ところで、先ほど日本社会の持続可能性にとって、「地方分散型」という方向が望ましいという結果が出たと言いましたが、現在の日本は一極集中が顕著であるため、そのイメージがつかみにくいという人が多いかもしれません。

この点をもう少し具体的に明らかにするため、本書の中でくわしく論じている内容ですが、海外の事例や動向をここで少し見てみたいと思います。

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