「2050年日本の破局」を防ぐ持続可能シナリオ AIが示す人口減少時代の「地域分散型」の未来

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写真は、ドイツのエアランゲンという、人口約10万人の地方都市の中心部の様子です。印象的なこととして、ドイツのほとんどの都市がそうですが、中心部から自動車を完全に排除して歩行者だけの空間にし、人が「歩いて楽しむ」ことができ、しかもゆるやかなコミュニティ的つながりが感じられるような街になっているという点があります。ベビーカーを押す女性や車いすに乗った高齢者がごく自然に過ごしている様子がわかります。

中心部からの自動車排除と「歩いて楽しめる街」(ドイツ・エアランゲン[人口約10万人])。街のにぎわいと活性化にも効果あり(筆者撮影)

加えて、人口10万人という規模の都市でありながら、中心部が活気あるにぎわいを見せているというのが非常に印象的で、これはここエアランゲンに限らずドイツの中小都市に広く言えることです。残念ながら、日本での同様の規模の地方都市はいわゆるシャッター通りになり空洞化しているのがほとんどという状況です。

一般に、ヨーロッパの都市においては1980年代前後から、都市の中心部において大胆に自動車交通を抑制し、歩行者が“歩いて楽しめる”空間をつくっていくという方向が顕著になり、現在では広く浸透しています。このような都市や地域のあり方が、先ほどの「地方分散型」の豊かさのイメージにつながると思います。

「地方分散型」につながる若い世代の意識

一方、AIシミュレーションが示した「地方分散型」という点に関してもう1つ重要なのは、人々の意識や行動、価値観に関することです。

これは私にとって身近な話となりますが、ここ10年くらいの傾向として、ゼミの学生など若い世代を見ていて、「ローカル」なものや地域、地元といったことへの関心が確実に強まっていることを感じてきました。

例えばある学生は、「自分の生まれ育った街を世界一住みやすい街にすること」をゼミでの研究テーマにしており、別の学生は地元の農業をもっと活性化させることを最大の関心事にしていました。また別の学生は「愛郷心」を卒論のテーマにし、それを軸にした地域コミュニティの再生を掘り下げていました。

あるいは、もともとグローバルな問題に関心があり、1年間の予定でスウェーデンに留学していた女子の学生が、やはり自分は地元の活性化に関わっていきたいという理由で、留学期間を短縮して帰国したという例もあり、こうした事例は枚挙にいとまがありません。

私はこうした若い世代の意識のあり方は、先ほどの「地方分散型」という方向とつながると同時に、これからの社会の1つの潮流を示していると思います。

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