有森裕子と松野明美、因縁の選考で秘めた胸中 バルセロナ五輪マラソン代表争いを振り返る
ふたりは2010年11月4日に、TBS特別番組「スポーツ人間交差点~光と影~」の企画でおよそ20年ぶりの再会を果たした。場所はふたりが初めて出会った熊本。松野の地元でもあるこの地に、有森は東京からやってきた。
対面を果たしたふたりは、ほどなくして抱き合った。そこには、世間が考えるような過去の因縁は一切感じられなかった。
松野は、有森が代表に選考されたときに、自分のことを考えたかと聞いた。
「選ばれたときに、喜んでいいのかなと思いました。みんなが苦しんだから。お互いに何も悪いことをしていないのに。ただ、当時は皆さんの興味があったから、松野さんの名前が会場から出ることはありました。私から名前を出すことはしたくなかったし、名前を出すことが松野さんに対していいことだとは思いませんでした」
選ばれなかった松野も、選ばれた有森も、違う苦しみを抱えていた。有森は別のインタビューで「メダルなんて防弾チョッキのように感じた」と当時を振り返ったことがある。
「メダルを獲って帰ってきたときに、『メダリストはメダルをかけて飛行機を降りてください』と言われて。たくさんのメディアの方がカメラを構えて待っていました。そのときに、『もしメダルを獲ってこられなかったらどうなったんだろう』と思いました。メダルを獲る前と獲った後で、世間の表情が大きく変わっていて、すごく怖かったです」
MGCの意義を強く感じる有森
曖昧な選考基準に翻弄された有森は、2019年9月15日に開催される東京五輪マラソン代表選考レース・MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)の意義を強く感じている。
「今までは参考レースがなかったんです。参考レースが選考レースになっていました。4、5個のレースすべてが一発選考で、基準も曖昧でした」
東京五輪マラソン競技の代表枠が「男女各3名」であることは従来どおりだ。大きく変わったのは選考方法。これまでは複数の選考レースの結果が比較されたため、順位やタイムなど基準が不明瞭だった。それが今回は、極めて明快な選考基準になる。
9月15日に開催されるMGCには、男子31名・女子12名が出場。彼らは指定のレースにおいて、基準となる順位やタイムをクリアした、いわば予選通過者だ。MGCの上位2名は、そのまま東京五輪代表に内定する。
3枠目は、2019年冬から2020年春にかけて行われる男女各3つの大会で、基準のタイムを上回ったうえで最も速いタイムの選手が内定する。該当する選手がいない場合は、MGCで3位の選手が内定となる。
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