中国で相次ぐ倒産、頻発するデモ…広東現地ルポ、“世界の工場”の憂鬱
春節(旧正月)明け間もない2月7日。広東省の広州駅前は、内陸農村部の故郷での正月休みを終えた農民でごった返していた。新年のたびに繰り返される出稼ぎ農民の大移動“民工潮”。向かうのは深せんの工場など廉価な労働力を求める職場だ。だが今春、この出稼ぎ者の群れは就職する当てを失い盲目的にさまよう“盲流”に変わろうとしている。省労働・社会保障庁の発表によると、旧正月後に省内に流入した農民工970万人のうち4人に1人が失業状態と見込まれているのだ。
省内屈指の工業都市、深せんの宝安地区。同郷人のツテを頼って江西省から出稼ぎに来たという少女は、電子機器製造請負サービス(EMS)世界最大手の台湾・ホンハイ(鴻海精密工業、通称フォクスコン)の門前で立ち尽くした。門扉には「新規採用はしばらく中止します」の看板。「ここならいつでも働けると聞いたから来たのに」。少女の周囲には他にも無数の出稼ぎ労働者がたたずみ、閉じた門を恨めしげに眺めている。
ホンハイは米アップルのiPod、任天堂のWiiなど電子機器のヒット商品を軒並み受託生産している巨大企業。深せんには2工場を構え、従業員数は36万人に上る。内陸部からの低廉な出稼ぎ労働力で大量の製品を加工生産し、低価格で先進国へ輸出する“チャイナプライス”の旗手である。だが最大の輸出先である米国の消費冷え込みを受け業績悪化。旧正月前に深せんの2工場だけで7万人を削減した。
台湾や香港、日本、中国の加工貿易企業約7万社が集積する広東省。中国の輸出総額の3割を担ってきた“世界の工場の心臓部”だ。だが2008年11月の輸出額は前年を割り込んだ。08年通年では9%超の輸出成長率を確保したものの、黄華華・広東省長は09年度を「若干伸びる程度」と見通し、ゼロ成長の可能性まで示唆している。
ホンハイのような大型リストラもあり、失業率が08年末の2・5%から今後上昇するのは必至。省発展改革委員会は09年の失業率を4%以内に抑える目標を掲げている。加えて、企業の倒産、夜逃げも続出。省の統計によると08年10月、生産停止や廃業に追い込まれた中小企業は単月で8513社に上り、1~9月の累計7148社を上回った。
未払い賃金支払い求め頻繁にデモが発生
広州と深せんの中間に位置する東莞市樟木頭鎮。経営破綻した香港資本の大手玩具メーカー・合俊集団の工場には、事実上解雇となった従業員に支払われる未払い賃金額の一覧が張り出されていた。一覧を食い入るように眺めていた女性は、「私もここで働いていたけれど、支払いの申し立てはあきらめた。転職先を探すことが先決だったから。おかげでほかの工場で職を見つけられたけれど……」と悔しげだ。