中国で相次ぐ倒産、頻発するデモ…広東現地ルポ、“世界の工場”の憂鬱
日本貿易振興機構・広州代表処の横田光弘所長は「法的には存続していても、事実上倒産した工場は日系でもいくつかある」と指摘する。
たとえば深せんに進出していた中小電子部品メーカーの工場。iPod関連の部品を生産していたが、08年末に受注が激減。固定費削減で不況期を乗り切ろうと従業員150人分の希望退職を募ったところ、給与1カ月に相当する上積み支給金を目当てに全従業員600人が応募し、旧正月前に操業停止に追い込まれたという。
加えて資金調達も厳しい。日系企業は通常、邦銀を介して人民元や米ドル、香港ドルを調達しているが、「リスク管理のために融資を厳しく審査している。仮に在中工場が健全操業でも、日本国内の親会社の格付けが下がっていれば貸さない方針」(メガバンク関係者)。さらに邦銀も人民元の調達先である中国の4大商業銀行などから与信を厳格化される状況にあり、08年12月ごろには邦銀そのものが融資資金を調達できない状況が起こっていたという。
受注減と調達難の二重苦で「3月までに需要回復が進まなければ、日系でも生産停止や撤退、倒産があるだろう」(総合商社関係者)。ただ今後の展望がどれほど不透明であっても、日系企業の多くは中国内陸部への生産移転や撤退が難しい。
「生産改善を進め、ここで歯を食い縛るしかない」。電子機器の外枠のプレス工場を経営する佐野一彦さんは言う。パイオニアやリコー向けに出荷していたが、08年12月末の受注量は3割に急減。850人いた従業員を6割削減、24時間稼働だったラインは現在10時間しか動かしていない。それでも受注回復の気配はなく経営は厳しい。
低賃金を目当てに物流インフラの整わない内陸部に移転してしまえば、広東に集中する顧客企業への納入コストは結果的に高まる。また、地元政府の優遇措置を利用し無税で生産設備や原材料を輸入しているため、現在の進出地から設備を持ち出すことはほぼ不可能。事実上、東莞に釘付けになっている状態だ。
佐野さんは在庫・調達管理のシステム化など生産改善を進めるとともに、現在の委託加工工場の一部を追加投資で外資法人などに登記変えし、中国企業向けなどに国内販売できる経営形態にする方針。
改善策を手掛けている香港のコンサルティング会社大忠の大利秀幸社長は「香港や台湾の企業が夜逃げをいとわないのは、足元の利益確定を優先するから。企業のゴーイングコンサーンを重視する日系企業は、地道な改善努力で生き残るしかない」と語る。