中国で相次ぐ倒産、頻発するデモ…広東現地ルポ、“世界の工場”の憂鬱

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 労働集約的で外需に依存した製造業の高度化は、中国政府の奨励するところでもある。だが谷底を渡り切る体力と知恵があるかどうかは、企業によりけりなのも事実だ。

農民のほうが稼げる「沿海部は豊か」は幻想


 一方で広東の労働市場では今、奇妙な逆転現象が起きている。

「今は田舎で農業をしたほうが稼げるようだ。広東暮らしももう潮時かもしれない」。

東莞の日系工場で働く張軍国さんは言う。湖南省の農村から出稼ぎに来て約10年。現在の月収は1000元弱だ。だが旧正月休暇に帰省して、農業と小さな売店を兼業する親戚の月収が2000元に上っていることを知った。06年の農業税撤廃の恩恵を受け、月収が3倍近くにハネ上がった計算だ。

親戚らと行った郷里のレストランも、3人で一晩150元と広東と水準は変わらない。新築の高層マンションやショッピングセンターもできていた。農村は貧しいという“常識”が一変した。「勤め先の工場は不況で当面昇給を凍結するつもりらしい。残業がないから手当も減った。これでは沿海部の工場勤めのほうがはるかに貧しい」。張さんは大幅な昇給がなければ、09年中に田舎に引き揚げようかと考えている。そしておそらく昇給はないだろう。

近年、広東の賃金は上昇の一途だった。一つには「民工荒」と呼ばれる人手不足で労働需給が逼迫したためだが、内需拡大を狙う政策誘導型の賃上げ局面が続いていたのも事実だ。広東省は08年夏、省内の平均賃金を年14%ずつ上昇させ、12年には省内労働者の賃金を倍増させる「広東版所得倍増計画」を打ち出していた。

だが現在、状況は一変した。公設職業紹介所の広州市人力資源市場服務中心の2月上旬の調査によると、市内の求人企業が出稼ぎ労働者に対して提示している平均月給額は1050元。08年同期に比べ約1割下がっている。1200元以上の月給を求める人が6割という出稼ぎ労働者にとっては厳しい現実だ。

逆転現象に直面しているのは、企業も同じだ。「熟練工なら月5000元出しても雇いたいが、そんな人材は100人に1人も見つからない」。省内の金型加工メーカーの採用担当者は頭を抱える。広州で開かれた就職相談会に参加したが、面接に来るのは新卒者や、経験者であっても低スキルの工員ばかりというのが実状だ。

広東の求人倍率は実は08年末も1・04倍を維持している。特に生産高度化需要で、機械冷却技術などの高スキル技術者の求人倍率は2倍に上る。だがこれまで長く労働力の低廉さと数を“むさぼって”きた広東には、1年ごとに工場を渡り歩く非熟練工しかいない。また、消費力向上とサービス産業拡大を受けて、調理師やウエートレスといった職も求人難。産業や社会の構造転換局面の中、広東は深刻な雇用のミスマッチに陥っている。

輸出産業の曲がり角。高まる失業率。所得への不満。そして不足する人材--。広東は複雑な連立方程式を解いていかなければならない。

(週刊東洋経済)

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