「機動戦士ガンダム」と「ジブリ」の意外な共通点 保守主義思想から読み解く
杉田:宮崎さんの自然観というのは、人を寄せ付けない過剰な原生林みたいなのがすごく強い。自然と人工が混在して新しい生態系をつねに作り出すような。
それに対し、高畑さんは、つねに宮崎さんに対する批判的な応答をしていたんですけれど、里山的な、人間の手がちゃんとほどほどに入って、そこで自然が豊かに育っているみたいな方向が理想だった。その意味では、高畑さんのほうが保守思想のマインドに近いような気もしますけれども。
中島:きっと、そうなんですよね。しかし、なぜか高畑勲の作品には全然魅力を感じないんですよ。どうしてでしょうね。
杉田:その辺りには重要な何かがありそうですね。
中島氏の考える「保守」とは
中島:それはたぶんこういうことだと思うんです。僕の考える保守って、おそらく、「里山的なもの」からはむしろ遠いんです。やっぱりずっと大阪の真ん中で育ってきましたし、小林秀雄が言うよな「故郷を失った」人々が見いだすような保守性なんです。
少し前からはやっているような里山的なものをあんまり理想化されたりすると、それはちょっと違うな、という感じが正直ある。いや、普通に年も重ねていくと自然に囲まれてホッとする、ということはあるとは思いますが、じゃあ自分がそこに暮らしたいかというと、そういう欲望はまったくありません。
杉田:さっきも話に出ましたけれど、中島さんの場合は、きっと過去の伝統や自然を絶対化するタイプの保守主義じゃなくって、いわば再帰的な保守思想なんでしょうね。いろいろな場所を転々としていますし、デラシネ(根無し草)というか。でも、実際にある場所に住んでみると、経験や時間が積み重なって、そこがトポス(意味のある場所)になっていく。
中島:そうなんですよ。だから、『魔女の宅急便』みたいに、たまたま降り立った町が本人にとってのトポスになっていけば、それでいい。そういう考えですね。
杉田:そう考えてみると、物語が終わったあとにキキがあの町にずうっと住み続ける必要もとくになくって、何年かしたらまた別の街に引っ越したりしながら、転々と暮らしていけばいい、新しい町や人と出会っていけばいい、という感じなんですかね。
中島:そう、僕にとってのトポスってそういう感じです。例えば僕はインドのデリーに戻っても、札幌に戻っても、等しく懐かしいと感じるんです。妻からは厚かましいって言われるんですけど。どこにいても、そこが昔からの自分の地元みたいな顔をしているから。
杉田:そうすると、高畑作品でいえば、『おもひでぽろぽろ』みたいな、美しい田舎の自然の光景とかは、ちょっとわざとらしく感じたりしますか。
中島:そうですね。あの作品は、途中で見るのをやめてしまいました。