筆者は、7月11日のコラム「日本株に期待できないと考えるこれだけの理由」で、「アメリカ株市場に対する判断はやや慎重方向に傾いている」と、アメリカをはじめ株式市場全般について慎重な姿勢を示した。
その後、同国株は一時史上最高値を更新したが、7月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)後のジェローム・パウエル議長の発言が嫌気された。そして8月1日に中国に対して追加関税を課すことが発表されると急落し、その後世界の金融市場は動揺した。一時、年初から約20%も上昇していたNYダウ工業株30種平均指数(ダウ平均)は、8月中旬には同約10%までパフォーマンスが低下した。
世界的な製造業の生産調整の影響は決して小さくない
一連の株価下落をどうみるか。世界経済の動向で動くアメリカ企業の利益の伸びは、2019年に入りブレーキがかかっている。
このため、年初来20%もの株高を持続するのはかなり難しかっただろう。貿易戦争への懸念などが株価下落の直接的なきっかけになったが、筆者はもともと割高な領域にあった株価が調整した側面が大きい、と位置付けている。
高値から調整したこともあり、ダウ平均の割高感は薄れた。後述するが、アメリカの長期金利が大きく低下、配当利回りを下回っていることもあり、同国株への投資の魅力度は高まっている。ただ、筆者は当面は楽観的になれない。
まず、足元で、製造業を中心に世界的な景気減速が広がっているが、製造業のセクターが持ち直す兆しはほとんどみられない。米中の関税引き上げによる貿易抑制は、これからさらに強まるとみられる。実際、米中貿易戦争で最も悪影響を受ける中国経済の減速が、夏場から再び明らかになっている。
同国では2018年秋口から景気刺激策が発動されているが、筆者が上述したコラムでも警戒したとおり、その効果は限定的に止まりそうである。
米中貿易戦争の長期化が明らかになる中で、アメリカを含めて世界的な製造業の生産調整が長引いているが、それがアメリカの国内需要抑制に波及するとみる。当面は、アメリカでも個人消費など国内需要の減速のシグナルが増え、それが株式市場の市場心理を低下させるリスクがある。
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